エレベーターを上がると、先には
また長く複雑な廊下が続いていた。
エレベーターを上がると、先には
また長く複雑な廊下が続いていた。
迷路みたいですねー
ここからの道筋は把握しているのか？
いやー、こんなに分かれ道が多いと思わなかったんですよ。戸の前に名前くらい載ってるかと思って、ここまでの行き方しか――
……すいません
……甘かったか
……あら
！
小さく凛とした女性の声に、
３人はエレベーターホールを振り返る。
長髪の美人だ。
きっちりとしたスーツに眼鏡をかけて、
何か書類を腕に抱えていた。
お客様ですか？
……もしかして、「海似みちる」さん？
ここまで来るのは大変だったでしょう？
「由緒正しい」校舎で、少々入り組んでますから
でも、工事してたようですが？
ああ……古い校舎ですから、今は使われない通路を封鎖したり、新しい設備を増築したりしているんです
海似みちるはしばらく分かれ道の多い廊下を進み、
しまいに装飾のついたドアを開けた。
……保健室？
と思うでしょう？
ここが私の部屋なんです
くすり、と微笑みながら、
みちるは中の大きなソファを示した。
あれ、どこかで見たことがあるような……？
まあいいや
どうぞお座りください。
紅茶でもお出ししますね
……それで、今日は警察の方がどういったご用件でしょう？
海似静武(しずむ)氏のことで伺いました
私の夫、ですか？
みちるは眉をややひそめた。
まさか、夫が何かの事件に関わっているのでしょうか？
いえ、大したことではありません。ただ、失踪していると伺ったもので
ええ……あの人のことは、よく分かりません
みちるはため息をつく。
あの人、数週間前に、キャブ……私の使っていたバイクと一緒に消えたんです
私用の、薄ピンク色だったのに
あのバイクを手に入れたのは偶然でした。
夫が友人から譲られて、私にくれたんです。名義は夫で登録されていますが、実際使っていたのは私でした
みちるは三人にカップを勧めると、
自分用なのか薄手のカップを別に取り出した。
"ウヴァ"です。
薔薇とサリチル酸メチルのような香りが混じっているでしょう？
サリチル…………？
あら、刑事さんはお詳しいのかと思ってました
サリチル酸メチル。
一般的な成人でたった小さじ一杯が致死量の薬品です
夜暮は飲みかけのカップを口から離した。
そういう香りってことです。
実際には入っていませんよ
みちるは笑顔のまま続けた。
ははは……
専門家って脅かすの好きだよな……
夜暮は心の中で呟きながら、
ストレートの紅茶をちびちびと飲む。
香りを楽しむお茶ですね。
高いんですか？
ミルク、よろしかったらどうぞ？
え……
砂糖もお持ちしましょうか？
お高く澄ました紅茶って絶対ストレートで出てくるけど、
善し悪しとか分かんないし、苦くて飲めないんだよなー
言葉の裏を、読まれた？
人の先回りをしてしまう、悪い癖がありまして
……さすが、心理学者
