露樹 梓

……ふぅ

露樹梓が気づいたのは夜遅くだった。


またフラれた友達の所へ行って慰めていたら、舞衣と水澤遥が入ってきて、結局帰れたのは21時過ぎだった。

夕飯は結衣に作ってもらった。
手料理だけなら手放しでも評価出来るレベルである。

ついでに、帰りがけに明日の朝食の材料も買っておいた。
柊作に先に献立を教えておこう。
いつもぶっつけ本番ではさすがに可哀想だ。

岸ノ荘に着き、隣人の部屋のベルを鳴らそうとして思い止まった。

露樹 梓

………あれ?


部屋の明かりが点いていない。
こんな遅くに外出だろうか。
なんにせよ、帰ってきたら言おうと思い、自分の部屋に入る。

電気を点け、一息いれると、急にドアのポストに封筒が入っているのが見えた。

露樹はいよいよ眉を潜めた。


岸ノ荘には大家の部屋の隣に部屋別の郵便受けがあり、殆どの郵便物がそこに届けられる。
部屋のドアのポストを使われることは今まで無かったのだが…。

いざ見てみると、細かい字で手紙が書いてあった。

露樹 梓

ラブレターの類じゃないな…

差出人は工藤柊作。



内容は……

露樹 梓

自分の過去を清算してきます…か


天井を仰ぎ、頭をかかえる。

露樹 梓

そうだったね…


忘れていた。
否、信じていた。

柊作から話を聞いた時、それはまだ岸ノ巻に慣れていなかった彼が急にこんな田舎に追いやった叔母に対する怒りだと思った。

しかし、江岸や岸ノ巻の人々と接していくうちに、彼はここにおぼつかなくも馴染んでいるように見えた。
おそらく、それは嘘ではないだろう。
もしそうなら、柊作が叔母を憎む理由はもう無いと思っていた。
なのに、彼は叔母の元へ向かった。
その理由が分からない。

だが、もし心の底ではまだ都会への未練があるのなら、裏切られた気分だ。

露樹 梓

まぁ…信じてやるかな


ポツリと呟く。
元々複雑な人間なのだ。
その心の底まで理解しきれるとは思っていない。

ただ、自分の知ってる柊作は…信頼には応える男だ。
ならば、信じて待つ。
それが自分の役割だ。


そして、新しい問題に気づく。

露樹 梓

梨奈が知ったら、どう反応するかな……


とりあえず、極力柊作を信じて行動するしかない。

最悪、彼との約束を破ることになるかもしれないが…
今、考えるべき最優先事項は…

露樹 梓

朝食どうしよう……

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