郵便ポストを見ると、手紙が入っていた。

俺は眉をひそめた。
岸ノ巻の知り合いには全員アドレスを交換してある。
わざわざ用があって手紙を送ってくるような人がいるだろうか。
俺は差出人の名前を見て凍りついた。


To 工藤柊作





From 萩本麗菜

俺の叔母からだった。

露樹 梓

本当に破っちゃったの?

部屋で露樹さんがため息をついた。



あの時、叔母からだと分かった瞬間、俺は何の躊躇もなくその場で破り捨ててしまったのだ。

工藤 柊作

はい


再び露樹さんがため息をつく。

露樹 梓

君の事情はよく分かってるけどさぁ…いくらなんでも破る必要無くない?生活費振り込んだとか、何か連絡しなきゃいけないことでもあったとかさ

工藤 柊作

生活費はもう振り込まれてありますし、そういうことは電話してくるはずです。それに


今の自分の笑みはきっとかなり歪んでいるんだろうな。

工藤 柊作

たとえ死んでも、絶対葬式に行かないしな

露樹 梓

……コラ


露樹さんが声を低める。

露樹 梓

それはたとえ冗談でも言っちゃいけない。君だってお父さんを亡くす辛さを味わってるんだろう?叔母さんの家族の方もそうなるかもしれないんだ。死んでもとか、何があっても言ってはいけない

工藤 柊作

……すいません


素直に反省する。

あまりに縁起が悪すぎた。



今の、江岸が聞いたら泣きながら怒るだろうな…と勝手に思っていた。

夕方
俺はボーッとしながら窓の外を見ていた。
朝の露樹さんの言葉が頭に反芻する。

実際、あれは本音だった。
行ったところで何をすればいいのだ。
叔母やその他親戚を全く知らない自分が。

何か事情があったのか、父はお盆や正月に実家に帰ろうとしなかった。




母と離婚したことを親戚に言ってなかったからだと思っていたが、よくよく考えたら父の葬儀の時、母がいないことに誰も騒がなかった。


母方の親戚が言ったのだろうか。

もし父が自分から言ったのなら、何故一度も帰らなかったのか。
考えてみれば、何故父の死後、祖父母ではなく叔母が親権を得たのだろうか。



考えれば考えるほど自分が家族について何も知らないのだと言うことが分かってくる。

突然、ベルが鳴った。
立ち上がってドアを開けると、そこには…

工藤 柊作

涼一…さん……?

萩原 涼一

……やぁ、柊作くん


自分の叔父にあたる人が立っていた。

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