Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
レダ暦31年
砂の町のメール屋さん
4
老人は、ダイオスと名乗った。
リウトはダイオスに連れられて、城下町の郊外、城の見える丘へとやってきた。
中心部からは結構離れていて、よほどのことがないかぎり人は来ないだろうと思われる、そんな場所。
ここからは、街全体が見渡せた。
そこにある小さな林の中に、一見そうだと分からないぽっかりと開いた洞窟があった。
入り口は石と丸太で埋められていて、リウトがどかすと人一人入れるくらいの穴が見つかる。
その穴をリウトが覗き込んでみるけど、真っ暗で何も分からない。
ダイオスが用意していた小さなランプに火を灯すと、ようやくぼんやりと中が分かる程度だ。
自然のものと言うよりは、人の手が入った形跡のある洞窟。
上部に木製のアーチで補強がされていた。
こんなところに……
リウトが声をもらすと、ダイオスが自分の白いひげを撫でた。
まだセアト王だった頃に頼まれて作ったんじゃ
レダ王も就任したばかりの頃はよく抜け出しての
当時の大臣が困っていたものじゃ
この抜け道がばれてからはレダも大人しく仕事していたようじゃがな
それでも隙を見ては逃げ出していたらしい
今じゃ立派な王になっておるがな
昔を懐かしむようにダイオスは目を細める。
へー。ダイオスさんってすごいんだね
王様のこととか色々知っているんだ!!
いつの間にか敬語ではなくなっている。
リウトが感動すると、ダイオスはにっこりと笑った。
昔わしは城に仕えてての
じゃが特別すごいことでもないんじゃよ
志願して認められれば誰でも城に使えることはできた
……まぁ、今は違うようじゃが……
ダイオスが洞窟を睨み付ける。
リウトも自然とそちらに目を向けた。
一寸先は闇。
どうして今は違うの?
何か不穏な動きがあるようじゃ
隣国ラルタークが武力で攻め込んでくると言う噂もある
戦争!?
あくまで噂じゃ
じゃが、最近の国の武力強化や、要塞の建設などが急がれてるからあながち間違ってもなさそうじゃがの
そうなんだ……
知らなかった
砂の町にそういった情報はあまり入ってこない。
豊かな城下町とは違って、みんな今日を生きることに精一杯なのだ。
まして戦争なんて恐ろしいこと、雲の上の話のような気がする。
もし、本当に戦争なんかが起こるとしたら、クローブも兵士として戦場に駆り出されるのだろうか?
行くじゃろ?
ダイオスが聞く。リウトは頷いた。
なら先に行け
歳を取ると体力も視力も落ちての
すまんがゆっくり行ってくれんか
ダイオスがおどけた調子で言うと、リウトは笑いながら頷いた。
戦争のことも国のことも気になるが、今はクローブだ。
クローブを一度砂の町に帰して、おばさんを喜ばせてあげるんだ。
行こう!
意を決すると、リウトはダイオスからランプを受け取り、洞窟の中へ足を踏み入れていった。