入口からあらわれたのは、真っ赤な長髪の青年と、不敵な笑みを浮かべる女性だった。
なんかワクワクしてきたなぁ。
そりゃぁいるでしょ。
きっと悪い儲け話の類よ。
入口からあらわれたのは、真っ赤な長髪の青年と、不敵な笑みを浮かべる女性だった。
あれ?
確か結晶師の……
なぁんだニグじゃん。
それとあと二人……、
アンタ達は訓練生ね。
そういうあんた達も
訓練生だよな?
そうゆーこと。
で、やっぱりここは
金儲けしようって
悪だくみする会でしょ。
げ!?
そうなのか?
って、あんた達も何するか
知らないのかよ。
俺は楽しけりゃ
良いかな。
フィンクス何言ってんのよ。
金儲けに決まってんじゃん。
残念っす~。
ここは秘密の特訓場なんすよ。
だから儲ける為の
秘密特訓場なんだって。
シャインと呼ばれた女性は、守銭奴のように儲ける話を繰り出す。口が達者そうで、ハルやジュピターでは間違いなく口喧嘩に負けてしまいそうだ。
で、何するとこなんだ。
もう一人――フィンクスと呼ばれた男性は、にこやかで親しみやすそうな表情と声色だ。結晶師ニグにこの部屋の事情を聴き出している。
静かに。
ここは秘密の特訓場。
語るより目にする方が
分かり易いでしょう。
そう言うやいなや、ニグは部屋の中央にあるカウンターに歩を進める。ハルとジュピター、そしてシャインとフィンクスが視線を合わせた。
――何だろうか?
シャインの言う通り、儲け話なのか?
これです。
?
ニグが手に取ったのは、一つのグラス。何の変哲もない只のグラスだ。そして次の瞬間には、そのグラスをカウンターに滑らせた。
は?
カウンターの端で止まるグラス。ニグはそれ以外に何かする予定はなさそうだ。ジュピターが疑問の声を上げるのも無理はない。
グラスを落とさずに
よりテーブルの端に
寄せれるか……。
そんなレース。
え?
名づけて!!
チキン!
Chicken
カクテル!!
Cocktail
そう呼ばれています。
普段見ぬニグの一面。ジュピターはドン引き。ハルは剣術とかの秘密特訓と思ってたので少し残念そうに眉を寄せた。
なるほど。
これで大金を賭けるのね。
面白そうじゃん。
金など賭けません。
金が絡むのは
グラスを割ってしまった時。
弁償する時くらいです。
我々が賭けるのは……
己のプライドのみです。
はぁ?
ア……ホ?
まぁまぁ。
やってみたら
意外に楽しいかもよ。
ニグの前に進み、グラスを手渡されるフィンクスは、両眉を上げ明るい表情で実に楽しそうだ。
ギリギリのところを狙うぞ。
あっ!
テーブルの端を越えてしまったグラスは落下した。だが練習用のテーブルの為、綿で埋め尽くされた受け皿的存在が用意されていた。
ほっ。
意外に難しいな。
駄目ねぇ。
アタシがやるわ。
貸してみなさい。
八割くらいでグラスは止まった。
あー、今のなし。も一回。
今のはそこのもじゃもじゃが
気になったのよ。
オイラ達一応
初対面だよな。
ま、いーけど。
もじゃもじゃだって
言ってるっすよ。
意外に良い人っすね。
何で、もじゃもじゃ発言が
良い人になるんだよ。
そこからハルとジュピターも巻き込まれて、レースは盛り上がった。
これはフォームが
重要なんじゃないか?
残身も重要だ。
剣術と一緒だな。
な~にが残身よ。
どんな汚い手を
使っても勝つのよ。
投げる瞬間、咳き込むとか、
無視出来ないくらいの
視線を送るとか、
変顔するとか、
後は……
分かった、分かった……。
しっかしハルってのか?
底抜けに下手だな。
私にとっては
全員ヒヨッコです。
その理由はこうすると
分かります。
ニグは綿で出来た受け皿的存在をサッと取り上げてしまった。そして普段見せないしたり顔をしてみせた。
そんな事したら
グラス割れちゃうじゃん。
オイラ弁償する
ガロン持ってないぞ。
要は落とさなきゃ
いいんだろ。
グラスを握り、カウンターの前に立つフィンクス。少しテーブルの前で固まる。それを眺めているハル達は、フィンクスの異変を感じ始めた。
ぷはぁー!
半端ねぇ、この緊張感。
さっきまでと全然違うよ。
ふふふふ。
本番と同じ状況が
如何に緊張するか
ご理解頂けたでしょう。
オイラにもやらせてくれ。
モジャモジャは後にしなさい。
アタシが先よ。
更に盛り上がる異様な雰囲気。深夜の食堂の一室が熱を帯び始めた。
ハルはフォームが
悪いんだって。
この瞬間に押し出すように……
?
ハルに細かいこと言ったって
逆効果だよ。
適当な技名とか
叫びながら投げたらいいかも。
おおー、それは
いいっすね。
適当にシャインが口走った事を、真に受けるハルは、快活な返事をして叫んだ!
うおーーーー!
行くっす!
秘技『鬼祭り!』
おおおーーーーー!
ドンピシャ。
こりゃいい!
偶然にしてもすげぇな。
リリースポイントでの
自然かつスムーズな動作。
力みすぎず狙い澄ました
素晴らしい一本でした。
ハルがそんなの
考えてるわけないって。
技名以外はきっと何も
考えてないはず……
まさか。
無心になれるなど
チキンカクテルレースの
上級者でも到達出来ぬ領域。
ましてや、今始めた者がその
領域に身を置くなど……。
秘技ぃ!
『鬼祭りぃっ!』
え!?
ま、まじ?
ま、まさか……
――そこからハルは125本連続でカウンター端へのビタ止めを成功させた。しかも途中からは公式ルールである、カクテルの入ったグラスを使用してだ。連続記録を数えようとしたが、途中で断念せざるを得ない回数。それに偉大な才能を前にして記録などどうでも良くなったのだ。
アア、ア、アタシの適切な
アドバイスのおかげよ。
凄すぎます。
これで奴らに勝てる!
ハルジュピに迫る
地獄四天王の影
命運を分ける刹那の煌き
周到に張り巡らされた
陰謀の交差点に
ドロドロに溶けた鉛より
熱い夜が弾け飛ぶ!
地獄四天王との死闘に
刮目せよ!!
次回!!
~錬章~ 53
地獄四天王
死闘の先に道は見えるのか!
Ru_Ruさん、コメントメルシー。
新キャラ二人共好きなキャラなので今後も期待していて下さい。
チキンカクテルレースは橋本ピッツァさんのお話を委託されてマギアに使用させて頂いているものです。原作は超面白いので是非読まれる事をお勧めします。ちなみに文中の鳳凰からリンクしてます♪
ありがとうございます。非常に面白かったです。そして恐縮です笑
浅草の小汚いBARから時空を超えてまさかこの闇のゲームが伝わってしまうとは…世の中ってホント不思議ですよね!
こちらこそありがとうございます。
演出までパクるという作戦ですが、暖かい目で見てやって下さい♪
書いてて凄く楽しいので、あと2話楽しみにして頂けたら幸いです。