今日もカフェで依頼者と待ち合わせ。
依頼者の男性はカフェの中で待っていた。
カフェの角の席を取ってくれていた。
軽く挨拶を済ませてから

早速ですが、依頼の経緯を再度聞かせてもらえませんか?

と訪ねた。

彼はメッセージの内容とほぼ同じ話をしてくれた。
名前は武山雅樹さん。

それではいつ何処で実行しますか?

確認しても、彼はしばらく俯いたまま言葉を発さない。

どうします?

再度聞いてみた。
すると彼は、スボンのポケットから封筒を取り出しテーブルの上へ置いた。
それを受け取り封を開ける。
まず出てきたのは紙幣だ。
どの依頼を一万円で受けているが今回は五万円入っていた。
驚きと嬉しさが込み上げる。
次に出てきたのは写真だ。
双子が一緒に並んでいる写真で、兄には左目に泣きぼくろがあることがわかった。
そして最後に出てきたのが、実行日時、場所などの記載のある紙だった。
俺は思わず唾を飲み込んだ。

本当にいいんですね?

と最終確認をした。
彼は軽く頷く。

そして、その日の打ち合わせは終わった。


武山雅樹さんの兄を消す日当日。
方法は簡単。
雅樹さんにお兄さんを呼び出していただき、
通りすがりに影に一滴Dead Shadowを落とす。
それだけだ。
この日はほんの数分で、作戦は終了し、翌日雅樹さんと前回のカフェで待ち合わせ。

俺は、雅樹さんに確認したい事がたくさんあった。

雅樹さん、何を忘れたか覚えていますか?

覚えてるよ。兄さんの事だろ。記憶なんか消えていない。それに兄さんは消えてなんかいないんだ。兄さんも、兄さんに関する記憶も全部消えるんじゃなかったのか?あれはデマなのか?

「覚えていません。」と言う回答が返ってくると思っていたのに、反対に質問を受けた。
どうなってるんだ?やっぱり人は消せないのか?それともお兄さんの影にDead Shadowが上手く落ちなかったのか?
様々な思考が渋滞している。

もういいです。それでは。

雅樹さんは怒鳴りカフェを出て行った。
引き止める事もせず、俺はカフェに残った。
閉店時間に店員さんの「そろそろ閉店ですよ」と言う言葉で我に返り、Dead Shadowを使った商売をやめようと決めた。

それから何日も家にこもったままの生活が続いた。

ピロン!

ケータイがメッセージを受信した音だ。
何日ぶりだろうか。
重い身体を起こしてテーブルの上のケータイに手を伸ばす。
雅樹さんからのメッセージだった。
俺はあんなに怒っていた雅樹さんからメッセージが来るなんて思っていなかった。

「優介さん。先日は怒鳴ってしまいすみません。私は、あの後時間はかかりましたが、依頼した内容の記憶が消えました。本当にありがとうございます。優介さんには感謝しています。それでは、またどこかで。」

人を消すのには時間がかかるのだろうか。
よく考えてみたら、俺は人を1人消したのか・・・
これは犯罪だ・・・
いや、俺以外の人の記憶から存在がなかったことになるんだ。
これは、犯罪なんかにはならない。
誰にバレる事もなくモノの存在を消す事ができる。
人でも何でも。
これからは何でも思い通りじゃないか。
Dead Shadowは俺の為にあるんだ。
これは俺の為だけに使おう。
今まで影としての人生だったが、これからの日々に光を取り戻すんだ。
俺が日の光を浴びるんだ。
自分が危険な思考に陥っているんじゃないかとも思った。
でもこの事実は俺しか分からないのだから。
さぁ、新しい俺を作ろうか。
フッと笑みがこぼれる。

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