Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
レダ暦31年
砂の町のメール屋さん
3
城下町は、賑わっていた。
砂の町とは違い、人も物流も多い。
今まで何度も都に来ているが、毎日がお祭り騒ぎのよう。
老若男女さまざまな人が綺麗な服を着ていて、砂の町にはない活気がある。
リウトが城下町に入ると、格好から砂の町出身者だと一目で知れる。
砂の町では一切気にならないが、服布に細かな砂が染み込んでいるから、少し叩いたり、どこかにぶつかっただけでも軽く砂埃が舞う。
それを気にして、極力何かにぶつからないように注意して歩いた。
砂の町よりも気温がぐっと下がったので、服布を一枚とって腰に巻きつける。
自分の地味な姿がちょっと気になりつつ、リウトは大ポストを目指して歩いていた。
ここへ手紙を預ければ、あとは配達してくれる。
城下町は広く、地理に自信のあるリウトでも細い道に入るとすぐに迷いそうになるので、出来るだけ大通りを歩いた。
大ポストも大通り沿いにある。
あら、砂の町の……リウト君だっけ?
こんにちは。配達お願いします
大ポストの扉をくぐると、すぐに声をかけられた。
リウトの格好は地味だけど目立つ。
カウンター越しに、顔見知りのお姉さんに薄布で包んだ手紙を差し出した。
遠いところからいつもご苦労様ね。あら?
お姉さんが、リウトの右手に残った一通の手紙に目を留めて首を傾げた。
それはいいの?
あ、これは僕が直接自分で渡したいんです
おばさんからのクローブへの手紙は、自分でしっかりと渡したかった。
それに、これをもとにクローブをせっついてやる。
お姉さんが一瞬顔色を変えたことに、リウトは気が付かなかった。
砂の町への荷物は?
今度はリウトがお姉さんに聞く。
すぐに帰るわけではないが、聞いておきたかった
ないわ
お姉さんがあっさり言った。
いつもはどこかを探しながら言うのだが、その即答にリウトは少し面食らった。
え? 少しも?
そうよ
帰り、楽でよかったわね
その笑顔に、なんだか腑に落ちない気分になったが、言い返せずにリウトは素直に引き下がった。
え? お城に入れないの?
目の前の険しい顔をした警備兵が、頑なに入城を拒否する。
前は入れただろ?
どうして今日は入れないんだよ!
今日だけではない
これからは“通行パス”が必要になったんだ
それがないなら城に入れるわけにはいかん
でも……!
ちょっと人に会いたいんだよ!!
ダメなものはダメだ
ただの田舎の民があっさりと城へ入れた今までのほうが尋常じゃなかった
ここはお前のような者が入っていいような場所じゃない
大人しく引き下がれ
じゃあ、俺が入れないんなら呼んできてよ!!
クローブって言う警備兵だよ!!
砂の町のリウトが会いに来たって言えば分かるはずだから!!
クローブの名前に、一瞬この警備兵の眉が上がる。
……分かった。クローブにお前が来たことは伝えておこう
だが、お前が城に入ることは出来ない
けちっ!!
何とでも言え
出来ないものは出来ない
じゃあクローブにはちゃんと伝えてよ!!
砂の町のリウトが来たってちゃんと言ってよ!!
わかった
それだけは約束しよう
警備兵に何度も何度もクローブの名前と自分の名前を教え込んで、それでも何か不安だったが、リウトは引き下がるしかなかった。
このままクローブに会えなかったら、おばさんに顔向けできない。
城に入れずともクローブには会いたい。
それにしても……
……街、変わった?
立ち止まって、見渡す。
空気そのものに違和感があった。
リウトが城下町に来るのは2ヶ月に1回のペースだ。
その間に何かあったのだろうか。
大ポストのお姉さんも、お城の警備兵も、なんだか様子が違う。
注意してみれば、街の雰囲気もなんだかピリピリしているような気もした。
行く当てもなくフラフラしていると唐突に声をかけられた。
この街でこんな格好をしているとよくあることだった。
砂の町の者は珍しい。
お兄ちゃん、その格好、もしかして砂の町から来たのかの?
しわがれた声の持ち主は見たところ100歳くらい。
胸元には大きな蒼いガラス玉。
こういう大きなガラス玉を付けているということは……
はい。あなたはウルブール族のお方ですか?
大陸の外れの島国にあるウルブール族。
うわさに聞いたことはあったが、初めてその姿を目にする。
しかしこの大きなガラス玉がなければウルブール族だと気が付かない。
リウトだってこのガラス玉を持てばウルブール族だと言っても不信に思われたりしないだろう。
老人の持つ頑なな雰囲気に、リウトは思わず敬語になる。
そうじゃ
ちと王様に会いにきたんじゃが門前払いをくらってしまっての
え?
僕と同じだ
やっぱり街はおかしくなっているんだ
どうしようかと思ってたらお前さんが警備兵と一悶着しているのを見かけてじゃな
しかも砂の町の者のような格好しているじゃろ
わしも昔砂の町に行ったことがあっての
懐かしくてだな、声を掛けずにはいられなかったんじゃ
老人は昔を懐かしむかのように遠くを見つめ目を細めた。
砂の町を知っているようで、リウトはこの老人に親近感を覚え嬉しくなった。
最近、警備も物々しくなっての
昔はこうじゃなかったのに……
嘆くような口調。
何か情報を持っているように見えた。
何か知っているなら教えて欲しかった。
あ、あの。僕もお城に入りたいんです
どうしても会わなきゃならない奴がいて……
どうすればお城に入れるか分かりますか?
警備兵にクローブへの伝言を頼んだが、どうにも心配だった。
すると老人は、リウトのこの言葉を待っていたかのようにニヤリと笑った。
この城が昔のままだったら、裏道があるはずなんじゃ
だが、見ての通りわしはこの歳じゃ
一人では無理そうでの
どうじゃ、ここはわしと手を組んで、一緒にレダ城潜入といかんかの?