生存者
外からだ……。
誰かぁぁ!!
まだ無事みたいだ……。
途絶えることのない
助けを呼ぶ声に
那由汰は声の主の無事を感じていた。
友美先輩……。
那由汰の物言いたげな眼差しに
友美は生唾を飲む。
も、もしかして、行くの?
コクリ。
うぅ……。
まあでも、不気味で怖かったけど
命の危険に晒されたわけじゃないし……。
行きますかぁ……。
友美先輩はゆっくりでいいから!
俺は先に降りる!
そう言い残して那由汰は
部屋を駆け出ていった。
ちょっと!
電気ついたからって、
置いて行かないでって
さっき言ったでしょうが!
その後を追うように
友美も部屋を後にした。
はぁはぁ!
那由汰が玄関の外に出る頃には
瀧林邸の前は静寂を取り戻していた。
どこだ!?
あたりを見回すも
声の主らしき姿は見当たらない。
もう少し先か?
手に持つ懐中電灯で足元を照らしながら
門戸の先へと歩み出る那由汰。
那由汰らが向かおうとしていた
その先を照らした時だった。
!!!
那由汰は息を呑んだ。
クッ!
懐中電灯が作り出す
光の円の中に
白骨が写り込んだ。
……さっきの声の主か?
間に合わなかったのか?
やるせない気持ちが
那由汰を包み込む。
那由汰くん!
ビクッ!
背後からの突然の声に身を跳ねる那由汰。
振り返るとそこには
追いついた友美の姿があった。
……友美先輩。
脅かさないでくださいよ。
おおっと、失礼。
まさか、そんな驚くとは……。
ところで、そこに何かあるの?
友美先輩は見ないほうが良い。
チラッ
あれ?
再び那由汰が白骨に目をやると
そこには中年の男が倒れていた。
友美は那由汰の肩越しにひょいと顔をだすと
ガタガタと震え始めた。
見ないほうが良いって……
もしかしてその人
死んでるの?
え、あ……いや、確認してない。
那由汰をあざ笑うかのごとく
倒れた中年はうめき声を出した。
う……ううん
よかった、生きてるじゃないですか。
あ、うん。
那由汰くん、思いのほか早とちりですな。
……。
腑に落ちない那由汰であったが
中年の介抱をすべく
その傍らに膝をついた。
もしもし。
もしもし。
……大丈夫ですか?
んんー……。
ハッ!
良かった、目を覚ました。
意識を取り戻した白衣姿の中年は
ゴシゴシと眼をこすったかと思うと
再び大声を上げた。
ひ……ひぃぃぃ!!!
助けてくれぇ!!
化物ォォ!!!!
落ち着いてください。
もう、化物はいませんよ。
那由汰は男を諭すように
落ち着いて話しかけた。
しかし、男は困惑していた。
やめてくれぇ!!!
鬼に食われるゥゥ!!!
あぁ……そうか……。
仕方ない。
そう言うと、那由汰と友美は
鬼神のかつらに手をかけた。
俺達は鬼じゃないですよ。
訳あって、鬼神の衣装を着ているのです。
もう、脅かさないでくれよ……。
しかし、ようやく人に出会えてよかった。
……ようやく?
まったく、今日はなんて日だ。
病院内の人々が全員消えたり、
ネズミの大群に追い回されたり、
この家から出てきた身の丈ほどの猛獣の影に襲われたり……。
!!
一体、私が何をしたと言うんだ。
……えと、矢吹先生。
今なんて言いました?
那由汰は憤る男の胸の名札を
ちらりと見て問いただした。
なんて、とは?
この家から何が出てきたんですか?
あぁ、大きな猛獣だよ。
暗くて何かはわからなかったんだが……。
走り疲れた私が
塀に寄りかかって
へたり込んでいると
猛獣が垣根をひょいと飛び越えて現れて
私に向かって突撃してきたんだ。
それで、どうなったんですか?
眼を爛々と光らせながら迫るそれに
私は気を失ってしまったんだ。
光る眼……。
矢吹医師が見たというその猛獣が
先刻対峙した闇を纏いしものである事を
那由汰は直感的に悟った。
矢吹先生がへたり込んでいたのは
そこですよね?
那由汰は矢吹医師が倒れ込んでいた
地面の方を指差した。
あぁ、たしかそうだ。
そこの塀に寄りかかっていたんだ。
那由汰は全てのベクトルが
同じ方向を向いている事に気がついた。
ヤツはこの先へと向かったんだ。
…『ロスヴァイゼ』とやらを求めて。
瀧林先生が向かったその先へ。
紗希ねぇちゃんが消息を断った方へ。
そして、再び闇を纏いしものと
対峙することを予感していた。
この先かぁ……。
友美もまた
それを悟らざるを得なかった。
酷く詰まった排水溝は
無機質なその音を次第に強めていた。
* * *
矢吹先生はどこだ!?
なんで、逃げるんですか……
矢吹先生……。
つづく