……紗希ちゃん。
……紗希ちゃん。
……私を呼ぶのは誰?
私……誰かにおぶさってる?
起きて、紗希ちゃん。
着いたわよ。
見て、コスモスのお花がいっぱい咲いてるよ。
……お母……さん?
お約束のお花の冠
作りましょうね。
……お母さん、
お母さんなの!?
うん、きれいな
おはなのかんむり
つくるー
……あれは……小さい時の私?
できた!
上手にできたわね。
……そう言えば、
秋にコスモスの冠
作ったっけ……。
それでは戴冠式を
初めましょうね。
わーい!
たいかんしきー!
おひめさまー!
偉大なる祖王が娘よ。
親愛なるヴァルキュリュルが
姉妹ロスヴァイゼよ。
我、ヴァルトラウテは
そなたを時期女王に命ずる。
わーい!
やったー!
あー……あんなにはしゃいで。
やったなー、戴冠式ごっこ。
幼心にすごく本物っぽかった
思い出だ……。
この後すぐだっけ……。
お母さんが病気になったの……。
コスモス畑で
お母…さ……。
すまないな……。
お前のお母さんじゃなくて……。
ハッ!?
少女が目を覚ますと
そこはあたり一面の暗闇だった。
そんなに、希理子に似ていたか?
極限環境にもかかわらず
少女が落ち着いて入れたのは
彼女の傍らに寄り添っていた
人物のおかげだった。
お父さん!
……おっと……。
そうか……そうだったな。
少女は僅かな光の中で
父親の姿を感じようと
傍らの人物にしがみついた。
それは先程の夢の中の
背負われた感覚によく似ていた。
お父さん、ここどこ?
私、なんでこんな所に?
覚えていないのかい?
そう言われて少女は
記憶の糸を手繰り寄せる。
んー……。
学校で友美と雨宿りしてて……。
お父さんが迎えに来てくれて……。
途中で眠くなっちゃって……。
恥ずかしいからヤダって言ったのに……
お父さんにおんぶされちゃって……。
しかし、
思い出せたのはそれだけ。
すぐに寝てしまったな。
だが、寝る前に私が言ったことは
覚えていないかい?
寝る前に……言われたこと?
少女は今一度
記憶の再生を試みる。
誰かに見られたら
恥ずかしいから……。
もうすぐ、闇がやって来る。
急がないといけない。
……もう……。
速いなぁ……お父さん。
私をおんぶしているのに……。
さすが男の人だ……。
少女は大きな背中に揺られ
次第に意識が遠のいていく。
あ……眠くなってきた……。
紗希は、希理子の事を
何か覚えているかい?
……お母さんの……事?
小さい時……コスモス畑で……
こうやって……おんぶされて行って……
……そこで……女王様…だって
……言われ……て……
……そうか。
言われていたんだな……。
……すぅ。
お母さんの……事?
いや、希理子に『言われた事』の方だ。
希理子は確かに言ったんだな?
紗希を…時期女王に命ずると。
突然の重い口調に
少女は思わず固くなる。
初めてみた父親のその姿に
戸惑いが隠せなかった。
ゴクッ
嫌だなぁー、お父さん。
ただのおままごとだよ?
それは違う。
どういう事、お父さん?
なんかさっきから怖いよ?
少女の傍らの人物は
一息ついた後、
こう続けた。
すまなかったな、
騙すような事をして……。
何のこと?
決して悪気があったわけではない。
ただ、話を聞く上で
この姿が便利だったのだ。
お……お父さん……?
傍らにいることで
確認できていたその姿が
みるみる影に覆われていく。
許せ、希理子の娘よ。
希理子は
確かに真曾の血脈を
継いでいった。
その時、少女は悟った。
出会ったことのない筈の
その血族の正体に。
お……
おばあ……ちゃん……
つづく