先程からなに阿保面下げて突っ立っていらっしゃるんです?

し、紫季


出てきたのはゴシックドレスの少女。


なつかしさすら感じる顔に
安堵する一方、
これは本物だろうかと疑う。





晴紘を
犯人だと警戒しているようには
見えないけれど……。




早くお入り下さい

あ、あのさ




彼女の後ろに
誰かが潜んでいるような気配は
感じられない。

庭にもひと気はない。





しかし
迂闊に入って
玄関扉に鍵でもかけられたら。




鐘が鳴れば
この世界から離れることが
できるかもしれないが

万が一ということもある。



灯里は、いる?

灯里様は納品に行っておられます

あ、そ、それじゃ、連続殺人の話はなにか聞いてる?





遠回しの中で
ここが
いつの十一月六日なのかを探る。




事件のお話でしたら晴紘様のほうが詳しいのではありませんか?

それとも灯里様がなにか

ち、違うんだ。それと灯里とは関係なくって

あ、ええと、今日は何年の何月何日だったかなぁ

……

長くなりそうでしたら先にお入りになりますか?

……はい


そう促されては入るしかない。

玄関先でいつまでも立ち話、なんて
自分でも怪しすぎる。
































































それで?
今は十七年十一月六日ですが

とうとう痴呆でもはじまりましたか? それともお誕生日ですか?

どっちも違う……



十七年。
それは元の世界からすれば五年前。

またしても違う年か、と思う一方、
まだ事件が起きていないことにほっとする。





この年は
自分がこの家に転がり込んで一年後。
その頃から既に
この娘の毒舌は始まっていたらしい。

と言うことは事件はまだ起きていない



そして

まだ
元の世界に戻る資格はないらしい。
















なぁ。紫季は灯里とは長い?



今までのことから推測するに
戻るきっかけは

灯里と、そして両親の過去。

晴紘様よりは



そこには
西園寺侯爵も関わっている。



つまり、

ってことは学生時代の灯里も知ってる?



あの連続殺人事件にも
つながっていく。












































灯里の父、森園輝が亡くなったのは
大学生の時分。

その頃からいるのなら
彼女も
何か知っているかもしれない。





















学生時代の灯里様なら、晴紘様のほうがお詳しいでしょうに

んー、灯里というか、この家全般と言うか



プライバシーだからと
今まで遠慮してきた領域に
踏み込んでもいいものだろうか。














きみは土足で上がり込む男だね

言えてる……








































何も決定的なことを
言い出せないまま

立ち上る湯気ばかりが
減っていく。



ご、ご両親のこととか

……


刹那、
紫季の柳眉が上がった。










【陸ノ肆】十一月六日、六度・弐

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