もう、ここは私だけの世界。心置きなく本が読めるってこと……
!!
第10章
兄妹の結末
どうして? 鍵は閉まっていたはずなんだけど
開くはずのない扉が開いたことに、驚きを隠せない。
それは簡単だ……鍵はあるからな
静かに現れたソルは、ゆっくりとした口調で応じた。
……その鍵……………
お爺様の鍵はソルも持っていたんだね。その【魔法の鍵】なら、どんな扉だって開けることが出来るものね
そうらしいな………
あれ? 鍵が消えた。これも魔法ってやつか?
………そうだね
いったい、いつ以来の対面なのだろう。
……
……
ほんの少し前に会ったような気がする。
ずっと会っていなかったようにも思える。
こうして、向き合って会話を交わすのは久しぶりのことだった。
最近では目を合わせることすらも避けていたのに、
自然と目と目が交わされている。
怖いはずの視線が、少しも怖くない。
(知っていた。彼の目は怖くなんてなかったから)
怖いと思っていたのは、
彼が望んでいたから。
もう、やめても良いよね
何をだ?
私が【ソルを怖がる】ってこと
ああ…………って怖くないのか? 俺が
怖かったよ。何を考えているのか分からないから。でも、本当のソルのことを思い出したから、今は怖くない……何を考えているのか分からないままだけど、怖くない
…………そうか
どうして?
……
……どうして……炎の中から私を助けたの? ソルにとっては何の得もないでしょ
それは……何となく
何それ?
何となく炎に飛び込んで助けたの?
ちがう………お前は…………俺にとって………………大事な家族だから……に
決まっているだろ!!
ソルは、いつもみたいに怒鳴る。
だけど、全然怖くなかった。
怖くないけど、胸の奥が痛かった。
…………へ?
ちょ、ちょっと、待ってよ……………大事な家族………なの?
はぁ? 家族だろ? 何言ってるんだよ? 俺たち、今までも三人で生きて来ただろ
家族……
ソルの口からそんな言葉が吐き出されるなんて……
何を言って…………っ
この野郎が
驚いている私にソルは速足で近づく。
そして、力いっぱいに抱きしめてきた。
………痛いって
バカなことをするから、お仕置きだよ……
このバカバカバカバカバカバカバカ!!
?
頬に冷たいものが落ちて来た。
(これは……)
このバカバカバカ野郎
ソルが泣いている。
泣きながら私を叱咤する
バカだけど、野郎じゃない
うるさいなぁ! 俺はバカだからさ、どうすることが兄貴らしいのか……わからないんだ。だから、ナイトの真似だよ。これは
…………痛いって……兄さんはこんなことしない………多分
痛くしているんだ………当然だろ? そうしないと、お前って分かってくれないだろ?
俺もそうだ。痛い目見ないと分からない、バカ野郎なんだよ。くそ、バカだよ……
意味がわからないよ
だから!! 俺が家族としてお前を見ているってことを……いい加減に分かれよな
…………………?
家族だからな! お前が隠していることぐらい、知っているからな………
…………………
…………おじさんと、母さんを殺したのは………俺の父親だな
…………………
ソルは絶対に気付かないと思っていた。
力強く抱きしめられているから、顔を見られていなくて良かった。
きっと、今の私は酷い顏をしているから。
だけど……
この状態じゃ、何も話せない
そ、そうだな
改めて、視線を交わす。
お互いに酷い顏をしている。
正解。
あの二人を殺害したのは、ソルのお父さんだよ
…………
私は、あの人が二人を殴っている現場を見ていたの。あの二人の殺害現場をね
………俺が来た時に、【俺が殴っていた】のを見ていたって言っていたよな。どうして、そんな嘘をついた
ソルの目がそう言って欲しいと言っていたから……
………否定は出来ないな
二人を消すことはね………それは私がやりたいことだったよ。
だけど、絶対に出来ないことだった。
俺もやりたかったな。
でも、俺にも出来ないことだ
殺意はあっても、実行に移すことなんて出来なかった。
私は子供だから、大人をどうにかする力なんてないもの。
悪いことだってことも理解していたから思い切ることが出来ない
俺は肝心なときに臆病で足がすくんでしまう。
殺意はあっても、罪を犯す勇気がなかった
我ながら情けない話ね
だな……
あの人は二人を殴ることに夢中だった。私が見ていることに気付いていなかった。
だから、現場を目撃した後、一度地下に戻ったの
………
そして、家の中が完全に静かになるのを待っていたの。
あの人がやることを終えて立ち去るまで……
やること……か。
それが、あの二人の殺害ってわけか……
………うん
現場の悲惨さを思い出すだけで、気持ちが悪くなる。
あの時の私は、酷く油断していたのだと思う。
完全な静寂。
それは二人が絶命したことと犯人が現場から去った証だと、私は考えていた
俺の父親は、わざわざ大きな音を立てて歩くからな。そうすれば、相手がビビると思っているから。
遺体だけが残された状況。
それを見て、まず私がすべきことを考えたの……
そして私が彼らを殺したような状況を作ることに決めた
どうして?
私はね……これでも私を産んだ両親を心の底では嫌っていないの。
私が惨劇を起こせばコレットが私を気にしてくれる
…………
どんな形でも良い、見て欲しかった。興味を抱いて欲しかった。だから……
…………
【私が彼らを殺した】ように見せる為に、彼らにナイフを刺そうとした。
けれど、刺すことが出来なかった……私の考えは甘かった
………あいつがいたのか
……そう、あの人………ソルのお父さんがまだ屋敷内に居た。それに気付けなかった
私が刺す直前に、あの人が声をかけてきたの。
驚いた私は、ナイフを血だまりの中に落としてしまったの。
これで血塗れのナイフは出来た
それが凶器であると見られているそうだな。
血塗れのナイフは、二人を刺したんじゃなくて、血だまりに落としたってだけだったのかよ。何だよ、それ……
慌てて拾ったけど、上手く握れなくて……また落としちゃって……情けないよね
そんな状況じゃ、仕方ない
あの人は怪我をしていた。
足を引きずっていた。
それでも、私が子供で、相手が大人であることは変わらない。
正面で戦うなんて自殺行為はできない。
それで……
あの二人にナイフを突き立てるのは後回し。だって私にとって、あの人は邪魔な存在だったから。
邪魔者をどうにかすることが先決だと判断した
どうにかするなんて、無理だろ?
私の手ではどうすることも出来ないけど、地下書庫に突き落として閉じ込めてしまえば良い。
時間が彼を殺してくれる。
そう思ったの。
父さんが放ってくれた炎もあるしね
そして………お前は、俺の父さんを地下書庫に落として閉じ込めた
そうだよ。
あれはソルが来る直前だったね。
私は地下に突き落として鍵をかけた。そこで、ソルと再会した。見られたのかと、焦ったよ。
これが、お前しか知らない真相だな
そうだよ……これを全部まとめて、一言にすると……
…………全員、私が殺したの