別格
無間のしみは
その近似した形状の連続がゆえ
眺め続けていると
吸い込まれそうな錯覚に陥る。
うぅ……
友美はめまいを起こしたのか、
フラフラと那由汰にもたれかかった。
大丈夫、友美先輩?
ここにしゃがんで。
うん、ごめん。
那由汰は友美を階段の脇に座らせると、
再び入り口からリビングに
懐中電灯の光を向ける。
これは……黒曾なのか?
霧状ではないその黒いしみに
那由汰は『黒曾』と声を上げた
友美の言葉に疑問を覚えていた。
もしこれが黒曾なら……。
那由汰は片膝をつき、
床のしみに指を伸ばした。
その時。
ダメだよ、那由汰くん……。
おばあちゃんが、
黒曾に交わるなって……。
座りながら
那由汰の様子を伺っていた友美が
声を上げた。
いや。
友美先輩、これは黒曾じゃないよ。
え……。
そう言って那由汰は
指に付着した黒いしみに光を当てた。
黒曾には黒曾同士が集まる
性質があるんだ。
外部の力などで一時的にバラけることはあっても、すぐに集まりだす。
だから、隙間こそ無いけど、
これだけの黒曾がばらばらに存在するのは考えにくいんだ。
そうなんだ。
じゃあ、それは一体?
うーん……。
はっきりとはわからないけど……。
那由汰は
リビングに懐中電灯の光を
向けて続けた。
よーく見ていると、光が当たっている所に少しずつ集まってきている。
それと、リビングの照明、テレビ、コンセントのあたりに特に多く存在している。
おそらく好光性・好磁性の
生命体……。
手触りからカビとかの仲間だと思う。
はぁ……。
那由汰くんって、
頭いいんだねぇ。
もしかしたら、こいつらが停電の原因かもしれない。
そう締めくくった後、
那由汰はリビングを訪れた時に感じた感触を
思い出していた。
でも……、
それだけじゃないな……。
さっきまで
ここに何かがいた。
那由汰の本能がそう告げていた。
友美先輩、立てる?
指の黒いしみを振り払った那由汰は
手を伸ばして
友美に声をかけた。
あ……うん。
もう大丈夫、自分で立てるよ。
先程まで不明な物質に触れていた
手を掴むのは抵抗があった。
そう。なら良かった。
じゃあ、もうここには用がないから
瀧林先生の部屋へ急ごう。
あぁ、こういう所が
まだまだ子供ですねぇ……。
紗希の苦労が目に浮かびます。
なんか言った?
友美先輩。
いえいえ、こちらのことです。
リビングを後にした二人は
瀧林教授の部屋を目指し
階段を登る。
しかし、二人は階段を昇り初めて
すぐに足が止まった。
くっ……。
こ、これって……。
階段を一段上がる度に
重い空気がまとわりついてくる。
それは二人が那由汰の家で
感じたのと同じもの。
しかし、
圧倒的に威圧的な物だった。
……上に……いる。
那由汰くん、やっぱりやめよう。
今度こそ、黒曾と交わっちゃうよ。
ぶんぶん
那由汰は友美の言葉に
強く首を横に振った。
もし、紗希ねぇちゃんの手がかりが
この先にあったら、
もう二度と会えなくなる気がするんだ。
だから、友美先輩は無理しないで
ここで待ってて。
俺はこの先に行く。
那由汰はそう言うと
階段を再び登り始めた。
え!ちょっと待って!
こんな所に置いてかれるぐらいなら
一緒に行く!
と、友美も力を振り絞って
階段を続いて上った。
瀧林教授の部屋の前に到着すると
那由汰はドアノブに手をかける。
ふぅ……。
開けるよ、友美先輩。
う、うん。
ここぞとばかりに小声になる那由汰に
友美はこれまで以上の緊張感を募らせる。
ウッ!
キャッ!
僅かに開いたドアの隙間から
強烈な風が吹き出しドアを弾き飛ばす。
吹き出すは止めどない黒。
それは明らかに黒曾の霧。
充満した黒曾の霧が
ほとんど目も開けられないほどの風とともに
部屋の外へ次々と流れ出した。
ほどなくして、
内と外のバランスが取れ
部屋の中から吹き出す風が弱まる。
!!!
!!!
ようやく直視することのできた部屋の中は
ただただ漆黒の闇。
……そして
その漆黒の闇の中には
怪しく、鋭く光る眼差しが
二人を突き刺していた。
つづく