この人形は
たまたま西園寺撫子に似てしまった、と
そういうことなのか?

この人形を西園寺侯爵が欲しがっているわけですか?


西園寺撫子は生きているのか?

それとも

この世界でも
もう亡くなってしまったのか?

本物が生きてるのに同じ顔の人形なんか欲しがるわけがない

……それに





































自動人形の主な用途は愛玩用。


しかし、

「実在”する”、
または”した”誰かの代わり」

という使われ方はしない。



考えることもなく
自分の意思で
動くことも無い彼女らは

容姿が似ていれば似ているほど
その「人形」の部分が目立ってくる。



似ていれば、似ているほど
「偽物」として映るようになるものだ。


















今まで
灯里が送り出した人形たちは
そうだった。

そして多分
他の作家による人形たちも。





























でも「撫子」は違った











「撫子」は
亡くなった「西園寺撫子」を模して
作られたと聞いている。

侯爵は
修理で戻されている「撫子」に
会いたいという意味を持つ花を
贈って来た。






西園寺邸で見た彼も
「撫子」をまるで本物の娘のように
扱っていた。







人形なのに。






















みてくれが同じだけの
ただの人形なら
そこまで可愛がるだろうか。


人形の動きに、
生前の撫子との違いを見ることは
無かったのだろうか。













矛盾している

いや。
侯爵は人形を生きた娘と見る数少ない人種だったのかもしれない

























欲しがったのはこれじゃない。瞳子だ



しかし
晴紘の言葉は否定された。

でも瞳子というのはこの、



人形のことではないのか?

つい先ほどは
そう連呼していただろうに。

私の妻だった女のほうだ。
私の瞳子はあんな阿婆擦れとは違う

ええ、と?


輝が言う
「西園寺侯爵が欲しがる瞳子」
とは、

この人形のことではなく
先ほど会った
灯里の母を指しているらしい。



だから彼女は
あの屋敷にいたのかと思う一方、
輝からすれば
別の男の元に去った女だから
阿婆擦れと……












ややこしい……


同じ名前をつけないでほしい。

目の前にふたりともいるならともかく
話の中だけでは
どの「瞳子」を指しているのか
わからない。
























でもどうして奥さんを欲しがる話になるんです

撫子が死んだからだろう? きみが今そう言ったじゃないか

ああ、ええっと



灯里の母である瞳子と
撫子は瓜二つ。

しかしそれは
瞳子が撫子の母だからだ。

そして瞳子が撫子を生んだのは
西園寺に行ってから。




だとすると
あの瞳子を「撫子の身代わりに」
欲するというのは矛盾する。

だが、もし――。

まさか


荒唐無稽な想像に
晴紘は首を振る。



















複雑に絡まった糸は
少しずつ解けてはいる。

だが
まだ全貌は見えてこない。







連続殺人の事件と
どう絡んでくるのか、
それとも全く関係ない話なのか。

今話している内容だって
聞くだけ無駄な情報かもしれない。


が、




戻れるはずの元の世界に
戻れない理由と

繋がりがあるのかもしれない。






























きみは他人のプライベートに泥だらけの土足で踏み入って来る男だね

あ、いえ……すみません


しかし
未来でそんなことが起きているなど
知りもしない男には

ただ単に好奇心で
質問しているようにしか
見えないだろう。

まあ……顔は似ている。
双子と言ってもいいくらいに

世の中には同じ顔をした人間が3人はいるという話だからな。
あり得ないことではない



だが、もし。

晴紘の脳裏に先ほどの想像が
首をもたげる。

と言うことは、奥さんは……そのぅ、侯爵の後妻ではなく、養女という扱いで?



もし、撫子がふたりいたら。

瞳子が西園寺に行く前に、
西園寺家に撫子と言う名の娘が
いたとしたら。

瞳子が産んだ娘にも
撫子という名が付けられただけ
なのだとしたら。



瞳子が撫子の身代わり、
という説は成立する。

娘の代わりならそうなのだろう。
あの女も侯爵家のほうがいい暮らしができるからな。喜んで出て行った

本当の扱いは娘なのか愛人なのか知らないがな

はあ



灯里の母を名乗った女は

輝のことを
「人形ばかりで妻子を顧みない男」
と、称していた。















夫婦間に何があったのかは
知る由もないが

ああ。だからこの人形は奥さんに似せて作られたわけですね

違う!
たまたまモデルにできる女が瞳子しかいなかったから仕方なくだな

何をニヤついている!

同じ顔の人形を作って
同じ名を付けてしまうほどには
未練があるのだろう。




















森園瞳子が
もうひとりの「西園寺撫子」の
代役になったのなら

瞳子に似せて作られた人形が
「撫子を模して」作られたと言うのも
間違いとは言えない。



前の世界で彼女が
「西園寺瞳子」と名乗ったのは
西園寺に行って
まだ日が浅いからで。

あの後、養子縁組や何やらの
諸々の手続きを経て
そして「撫子」と名乗るように
なったのかもしれないのだから。







【陸ノ参】十一月六日、五度・陸

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