Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
セアト暦28年
英雄の夢
4
これ、持ってて
壊れた柵からロープだけを丁寧に抜き取って、レダは自分の腰にしっかりと巻きつけた。
そして、反対側をミランダに渡す。
大丈夫なの?
ミランダはロープを受け取って、心配そうにレダを見つめた。
クーまで1メートル弱。
仔犬だし衰弱しているので、助けるには抱き上げてあげる必要がある。
子供たちだけの力で助けるには少し心もとないし、今更だが大人を呼んできたほうがいいかもしれない。
レダだって危険だ。
しかし、もう時間がない。
クーの体力が限界なのだ。
大丈夫さ
必ず助けるよ
ミランダを安心させるようににっこりと微笑むと、レダは慎重に崖を降りていった。
クーは不安そうにレダを見上げている。
ミランダはレダの言葉を信じることにした。
そもそも最初からレダを頼っていたのは自分だ。
ほら、あなたも手伝って
心配そうにレダを見ていたラムダは、ミランダに言われて慌ててロープを握った。
突然強い風が吹いた。
海ではよくあることだ。
レダは壁にしがみついて耐え、クーもなけなしの力で木にしがみつくが、その木の根元からミシッと嫌な音がする。
クーが軽いおかげでまだ持っているが、次に風が吹いたら終わりだった。
焦ったレダは急いだ。
固唾を呑んで見守っていると、レダが両手を放したので引っ張られたラムダはミランダと2人で踏ん張って耐えた。
レダは足の力だけでバランスを取り両手を伸ばすと、クーを抱きかかえた。
やった!!
思わずラムダがガッツポーズをすると、
きゃっ!
ラムダがロープを放したせいでミランダが下に引っ張られそうになって、レダもクーを抱き上げたまま落ちそうになって、ラムダは慌ててロープを握りなおした。
ちょっと!
しっかりしてよね!!
叱り飛ばすミランダだが、声に嬉しさが含まれているのであまり迫力はない。
ラムダも怒られている気はしなくて、顔は笑っていた。
クーの救出成功だ!
上行くよ!!
いーよーっ!!
レダの声が聞こえて、ラムダが応えた。
レダは右腕でクーを抱き、残った左手で崖をよじ登ってくる。
クーはレダにしっかりと掴まっていた。
ラムダとミランダは慎重にロープを引っ張り、レダが近くまで来るとラムダはレダの右腕を取り直接引っ張った。
そしてレダが上りきると、3人とも地面にひっくり返った。
とうちゃくー!!
やったな
クーは大丈夫?
ミランダはすぐに起き上がって、まだレダにくっついているクーを抱きかかえた。
ラムダも倣って起き上がり、ミランダの腕の中のクーの頭を撫でてみた。
毛並みがやわらかくて気持ちいい。
慣れない匂いに反応したのかクーがラムダのほうに顔を向けると、それだけでラムダはちょっとびっくりした。
それを見ていたレダが笑った。
疲れているみたいだけど大丈夫だと思うよ
数日休めば元気になる
な、クー
くーん
レダが呼びかけると、クーは尻尾を一振り大きく振った。
太陽は高い位置にある。
また強い風が吹いたけど、ラムダたちにはビクともしなかった。