Wild Worldシリーズ

セアト暦28年
英雄の夢

5

   

   

   

 ボーッという重低音。船の汽笛。

 空にはカモメが飛んでいて、水平線がはっきりと見えた。


 ここはストーンリバーの大きな港。

 
 様々な格好の人たちがあふれる大通りを避けて、ラムダとレダ、それにミランダは少し外れたところで3人そろって強い潮風に吹かれていた。

 大小さまざまな船の出入りを、3人でぼんやりと見る。

 

ラムダ

帰っちゃうの?

少しさびしそうにラムダがぽつりと聞いた。

レダ

うん。もともとオレと一緒の人の用事が終わるまでだったんだ
思ったより長くいたから、ミランダと仲良くなったり君と会えたりしたんだけどね

 公園のクーの事件があったすぐ後に、レダの元へ迎えが来た。

 飛び交う言葉が難しくてラムダにはいまいち理解できなかったけれど、またどこかへ旅に行ってしまうんだろうとなんとなく分かってしまった。

 そのときのレダのうれしそうな顔をまだ覚えている。

 旅人だから旅に出るのは当然のことなのだが、ラムダはやっぱりさびしかった。

 せっかくいいお兄さんと仲良くなれたのに。


 クーは幸せそうにミランダの腕の中で眠っている。
 

レダ

あれかな

 汽笛を鳴らし、煙が吹いている大きな船を見て、レダがぽつりと呟いた。

 ラムダはその言葉に反応したくなくて、動きたくなくて、拗ねたようにただ立っていた。


 そんなラムダにレダは苦笑してラムダの頭にポンッと手を置くと、しゃがみ込んで目線をラムダに合わせた。

 そして、胸元にぶら下がっていた白いオカリナを取り出した。

レダ

これ、君にあげるよ

友情の証

ラムダ

え!? いいの!!?

 まさかそんな貴重なものをもらえるなんて思っていなくて、悪い気がしてきた。

 
ラムダが大げさに驚くから、レダは笑った。

レダ

うん。砂の町に行けば簡単に手に入るからね

 ラムダは遠慮がちにそれを受け取ると、やっぱりうれしそうな顔をした。

 表情がコロコロと変化して、素直な子供らしい子だとレダは思った。

レダっ!!

 誰かの呼ぶ声に、レダは声の主を探した。

 体格のいい大人の男の人がまっすぐにレダの元へやってくる。

準備はいいか? もう行くぞ

レダ

うん

その子供たちは?
女の子は何度か見たことある気もするが

レダ

フェシス待ってる間に仲良くなったんだよ
女の子がミランダ。宿屋の子
この子はラムダ

 レダが2人を紹介する。

 ミランダはにっこりと笑ってお辞儀をし、ラムダは知らない大人に慣れてないためかおどおどとしてしまう。

ほう、そうか、レダが世話になったな

 フェシスはニヤッと笑うと、ミランダの頭にポンッと手を置き、眠っているクーの毛並みをそっと撫でてから、ラムダの頭をわしゃわしゃとかきむしった。

よし、いくぞ

 そしてレダの頭を叩いて先に歩き出す。レダは笑いながらフェシスについていった。

レダ

じゃあ、また会おうな!!
ラムダ!!
ミランダ!!
クーもっ!!

 レダは振り向きざまにラムダたちに大きな声で言った。

ラムダ

また会おうねーっ!!

 反射的にラムダが返すと、レダは気持ちよく笑って、フェシスの隣に並んで歩き出した。

 旅好きな笑顔。

 お別れは寂しいけれど、そんなレダの笑顔を見たら応援したくなる。

 
 しばらくボーっと彼らの背中を眺めていたラムダだったが、2人が船に乗り込むのを見送ると、ハッと我に返った。

ラムダ

ね、ねぇ、フェシスって……??

ミランダ

英雄フェシスよ。知らないの?

ラムダ

え! えっ!!? あの人が!!?

 今更驚いて興奮するラムダに、ミランダはくすくすと笑った。

ラムダ

すげーっ! かっこいいっ!! あ、サインもらっておくんだった!!

 ラムダは目を輝かせながら悔しがっていた。
 
 知り合えただけで、その存在に触れただけでまさに奇跡。


 英雄の伝説。憧れの英雄。

 その人が今まで目の前にいた。

 手の届かない空をつかむような存在だと思っていた人が、目の前にいた。


 聞きたいこと、知りたいこと、教えてほしいことはたくさんある。

 
 きっと、知れば知るほど憧れは募っていくのだろう。

ミランダ

また会えるわよ
彼らこの街に来るときはいつもウチの宿を取ってくれているもの

ミランダがあっさりと言った。

ラムダ

ホント? ホントっ!!?

 ラムダはきらきらした目をミランダに向けた。

ミランダ

ホントよ。会えないことなんてないわ

ラムダ

その時はボクも呼んでよ! 絶対だよ!!

 ミランダに笑われながら、ラムダは今日の奇跡をかみしめていた。

















   
     

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