機械仕掛けの人形を生身に変える。
そんな自然の摂理に反した行いが
ここにいると
さも当然のことのように思えてくる。
こいつらみんな、人間になる途中なのかもな……
馬鹿げた考えだ。
しかし誰も否定してはくれない。
それどころか
そのとおり
!
誰もいないと思っていた工房の
奥から声がした。
聞き覚えのない声が。
目を凝らす。
晴紘に背をむけたままで
誰かがいる。
……
その誰かを視界に止めながら
晴紘は
出入口のほうへ数歩後ずさった。
まさか
不法侵入者同士が鉢合わせした、
というわけではあるまい。
あの声はきっと
この世界での工房の持ち主。
こんな家の奥にまで
足を踏み入れていては
「家を間違えた」なんて弁明もできない。
自動人形は人間と何も変わらない
そうだろう? 瞳子
瞳、子?
瞳子というのは
ひとつ前の世界で出会った
灯里の母を名乗る
撫子によく似た女の名……
ではなかったか?
まさかあれも人形だとか
いや、そんなことはない。今の技術でそんなことはできっこない
否定しながらも
今度は西園寺邸で見かけた
「撫子」を思い出す。
あの
まるで人間のように
動いていた彼女のことを。
人形の撫子に1度会っておけばよかったな
「自動人形の撫子」は
月に1度は修理に戻ってきていた。
納品の際など、
見かける機会はいくらでもあったのに。
見ておけば
今までに出会った
「撫子らしきもの」のうち
どれが人形で
どれが似たものか
判断することもできただろうに。
そして私の瞳子は本物になるんだ
部屋の暗さにも慣れてきたのか
うっすらと人影が見える。
……な。もうすぐだよ
男と。
女が。
撫子!
晴紘は声を上げた。
女が眠っている。
もう幾度となく
出会って来た顔をした女が。
これは人形なのか?
人間なのか?
修理に戻て来ていた「撫子」と
同じものなのか?
似て非なるものなのか?
これは瞳子だ
あの西園寺邸で出会った女
……なのか?
……