薄暗い中に足音だけが響く。




本当に誰もいないのだろうか。

見つかれば
面倒なことになるだけなのだが

いつもいるはずのふたりがいないのは
寂しくもある。

あいつらがいるかどうかもわからないのに、な



少し前の世界では
殺人事件の犯人にされて通報されたり

また違う世界では
切られそうになったりもしたけれど



それでも
会いたいと思う。





俺の世界の
灯里と紫季に。




























……何か手がかりがあるとすれば、工房か

晴紘は工房を目指す。



細かな部品が多いのと
自動人形自体が
精密機器だと言うこともあって

今までその場所に
立ち入ったことはなかった。




けれど
























ごめんな、灯里

ちょっとだけ、見せてくれ

晴紘は心の中で謝罪の言葉を呟くと
工房の戸を開けた。

























































ここが、



最初に目に入ったのは
天井まで届きそうな本棚。

機械関係だけでなく
医学書のようなものまで
雑多に詰め込まれている。




そして反対側の壁には














少女の顔をした人形が
ところ狭しと並んでいた。




作りかけなのだろうか、
そのどれもが、何処か欠けている。

髪がなかったり
四肢がなかったり

だから、
人形だと思うことができるのだが……

そのどれからも見つめられているのは
どうにも居心地が悪い。






……す、すぐ出て行くからさ

工房に足を踏み入れたことを
暗に咎められているようだ。





























































作業台と思われるテーブルの上にも
等身大の機械が転がっている。

ああ、中身はこうなっているのか


晴紘は様々なコードが絡み合った
鉄の塊に目を落とした。


頭と胴体だと思われる。
これを人肌に相当する外皮で
覆うのだろう。

こうやって見ると……材料が違うだけで、人間と作りは一緒なんだな



目の部分には
ふたつのレンズがはめ込まれている。

腕も、指も、
人間の骨格となんら変わらない。

ただ、材質が違うだけ。



……これなら……人間の腕をくっつけても動くかもしれない
























人形のパーツとは違うよね

いつかの
灯里の言葉が脳裏をよぎる。














人間だって、骨折した骨を固定するのにボルト埋めたりするし、義手や義足なんて完全に機械だもんなぁ


人間のパーツを人形につけるだなんて
最初は荒唐無稽な考えだと思った。

しかし、実物を見れば
「もしかしたら可能なのかもしれない」
という考えが首をもたげる。




晴紘ですらそうなのだから
ずっと人形に携わってきた灯里や
人形を実の娘のように可愛がっている
西園寺侯爵などは、

禁忌に……手を出すかもしれない

【陸ノ参】十一月六日、五度・参

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