地味にいい笑顔で言うな……
……つまり
僕たちが今いるリンデン共和国は、隣のサラシュ王国と対立関係にあって、
武力抗争になった時に真っ先に戦力になる魔法使いを先に潰そうとしてきた……と
それがあの偉そうな生徒会長さんの意見なんですね
まあ、今この国がサラシュ王国と対立関係にあることも、もしかしたら武力抗争になるかもしれないことも確かだから……
筋は、通っていると思う
その言い方だと、ミロクお姉さんには何か不満があるようですね
不満っていうか……何か引っかかるというか……
ほう
本当に魔法学校を潰したいならば、こんな時間に攻撃はしない
それなら、こんな中途半端な攻撃をしかけたのには、何か意味があるんじゃないかって思って
威嚇のつもりだとか
威嚇……そんな面倒なことするのかしら
面倒ですか?
わざわざ敵国に赴いて、潜伏して、それで破壊するのは校舎の一部だけ……そんなのあまりに非効率で面倒でしょ?
確かに
因みに、この国には他に魔法学校があるんですか?
ここと、もう一つしかない。ただまあ、魔術偏差値が高いのはうちの学校の方
魔術に偏差値とかあるんだ……
そりゃまあ……生徒にとっての魔術は学問の一つみたいなものだしね
大変ですねー
棒読み……
話を戻しますけど、もし攻撃したのが敵国じゃないとしたら……一体誰が校舎を破壊したんでしょう
さあ……
魔法が使える人間だというのは確かだと思うけど
ぶっちゃけ一番怪しいのはこの学校の生徒ですよね
こそこそ侵入する必要とかありませんし
ま、僕は部外者だけど堂々と侵入しているんですけどね
うーん
この学校の生徒がやったにしても……動機が……
そりゃまあ、学校が嫌だったとか
そんな理由でそんなことするわけないでしょ
僕だったら……
したいと思いますけどね
…………
シュウヤ、あなたは……一体何があったの?
……何、とは?
まるで何か……転生前の世界に嫌な思い出があるようで……
時折、表情が暗くなるから
別に何も……僕は元からこんな顔です
しいていうなら、裏切られた……それくらいです
裏切られた……?
いやー、僕見かけによらず優秀な人間なんで、周囲から敵対視されてしまったんですよねー……いやあ、優秀な人間は辛い
また適当なことを……
…………
お姉さんは、そういうことないんですか?
私?
お姉さんは、自分がモテないのはおかしいって公衆の面前で叫ぶことができるほど優秀な人なんですよね?
優秀っていうか……
確かに魔法と学業は優秀だけど、顔面偏差値とかそれ以外は所詮平均以上くらいだと思っている
でも、妙に高すぎるよりも、そこそこ低い面があった方が優良物件なんだと思って
謙遜していそうだけどさらっと「平均以上」とか言ってるよこの人……
何か言った!?
いえ、何でも。
じゃあ、そんな優良物件なミロクお姉さんは、誰かにひがまれたこととかないんですか?
ひがまれたことか……
特に、ないかな
それはとても恵まれていますね
まあ、私のことを羨ましいと思っている子は少なからずいるとは思うんだけど
お姉さん、知っていますか?
そういうのを、自意識過剰って言うんです
やめたほうがいいですよ、そういうの
う、うるさい!
地味にいい笑顔で言うな……
「うるさい」は、会話を放棄する定型文ですよ
…………っ
じゃあどうすればいいのよ
さあ
さあ……って
あ、話はまた戻りますけど
今回、事件の被害者は一人もいなかったんですよね
うん……まあ、始業時間前だったからかな
いやでも、始業時間前でも教室に来る生徒くらいいるでしょう
現に、ミロクお姉さんは僕がいなければそのまま教室へ行ってませんでした?
確かに……
リリコたちも、魔法の練習始めなければ教室へ向かっていただろうし
なんだろう……犯人は偶然人が教室にいない時間を狙ったとか……
そんな都合のいい偶然なんてありますかね
それなら……一体……
犯人が、生徒皆が外に出るように誘導したとか
そんなこと簡単にできるわけがないでしょ
リリコたちが外に出たのだって……ライトが発破をかけたからで……
あれ……
やっぱり、何かが引っかかる
参考までに聞きますけど、あの生徒会長さんの得意魔法って何なんです?
……確か「風」だけど
じゃあ、風圧で壁を壊すことも可能ですね
まさか、ライトを疑っているの?
いえ、別に。ただ一つの可能性を考えたかっただけです
あの生徒会長さんが言葉巧みに生徒たちを教室の外に出させ、そしてあの校舎を破壊した……とか
その話は筋を通すことができるかもしれないけど
動機がない
彼は、この学校の生徒会長だよ?
この学校に何かあったら生徒代表として責任を負う立場だもん……破壊するメリットがない
案外、自分の立場が気に食わないだとか、そんなちっぽけな理由もありますよ
動機なんて、本人にしか分からないんですから、想像するだけ労力の無駄です
そうね……
それに僕は、まだ可能性を提示しただけですし
それに、気になる人物はもう一人いますし
え……?
あ、お姉さん。僕はそろそろお腹が空きました
え……?
続きは夕食の後にでもしましょうか
誰が夕食作ると思っているの……
ごちそうになりまーす
今、絶対感情こもってなかったでしょ?
いえいえ、感謝してますよー
それなら目くらい合わせなさい……
にしても……
普段の私だったら、ライトのあの話に納得して、何も考えなかったのに。
こいつのせいで、妙に真相について考えてしまう
どうしたものか……
さて……この時私はまだ知らなかった。
まさか自分が、とんでもない事件に巻き込まれるなんて
つづく