時屋さんは、悠然と足を組み、不敵に笑っている。
さて、と。まだなにかありますか?貴方が抱えているものは、舞花さんのことだけではありませんし
時屋さんは、悠然と足を組み、不敵に笑っている。
余裕ですね
貴方に余裕がなさすぎるんですよ
いいえ、時屋さんにとって、僕たちのことなんて他人事だからそんな風にしていられるんでしょう?
契約を守るだけ、なんですもんね
……今の自分が冷静でないことくらい、わかっている。
此処に来ればなんとかなるかもしれない、そう思っていた自分がいたことが、すごく恥ずかしい。
違いありませんね。それじゃあ、お帰りになりますか?
……いいえ、これだけで帰れるわけ、ありません。なにも納得はしていませんし、訊きたいことはあるんです、訊かずに帰るわけにはいきませんよ
私は構いませんが……その話は、今、この場で終わらせてしまっていいのですか?
……どういう意味ですか?
そのままの意味ですよ。貴方ひとりで、終わらせてしまって、ほんとうにいいのですか?
……あぁ、そうか。
僕は今、あの時の回答を迫られている。
保留にしてしまった、選択。結論。
正しいほうじゃない、後悔しないほうを選びたくて、十五年、ずっと、保留し続けてしまっている答え。
こんなに放っておいても、目をそらしても、出ない答え。
……まだ、なんですね。時間切れになってしまわないうちに、選択してくださいね
話すのか、話さないのか、を
ひとりで考えていると、自分が何処にいるのか、何処へ向かえばいいのか、わからなくなってしまう。
時屋さんは、選択しろ、と言った。時間切れが迫っているこの上ない証明だ。
……彼は契約に忠実だ。
これまではよかった。舞花の幼馴染として、ふるまっていられた。
でもそれも終わってしまう。
選択しなければならない。
居なくなってしまう自分のことを、話すか、話さないか。
ハッとなる。携帯が鳴って、一瞬で意識が現実に引き戻された。
相手は……舞花。
深呼吸をひとつ、通話ボタンを押す。
もしもし、舞花?
もしもし、由宇?こっちは、終わったよ
僕も終わったよ
あの……時屋さん、なんて?
特になにも。わかりました、って感じ
舞花から頼まれたのは、花楓さんのことを時屋さんに伝えることだけだ。
舞花はまだ、具体的なことはなにも知らない。わかっていない。
だから今この電話では、なにも伝えられない。
そっか……。怖い人だとは思ってたけど、やっぱり、冷たくて淡泊な人だね……
……舞花は、どうだった?思い出せた?
うん、思い出せたよ!
わからないことも増えたけど、でも、やるべきことはわかったよ
私は、時間屋に行くよ
……その言葉をずっと恐れていたのだと、自覚する。
舞花が真実を望んでいる。……僕は選択しなければいけない。
……その前にね、舞花
聴いてほしいことが、あるんだ
僕が隠し持っていた手札は、舞花が抱えてしまったものを、軽くすることができる。
知ってからどうするかは舞花次第だけれど。
後悔することなんか、ひとつもない。
選択することが恐ろしくて先延ばしにしていたのか、僕は。……情けないな。
でも、もう決めた。
舞花に選択肢を提示することができるのなら。
舞花のためになるのなら。
すべてを、話そう。
第十七話へ、続く。