月夜2

鶴太郎

………。

目を覚ますと、左右に与兵はいません。
いつもならどちらかに与兵が寝ているはずでした。

鶴太郎はムクっと起き上がりました。

鶴太郎

よひょ~。

母親を呼ぶ、ひな鳥のように言いました。

吾助

こっちだ。

吾助の声が聞こえてきます。

鶴太郎

む……。

声が聞こえてきた方を見ると、座っている吾助の隣に与兵の後ろ姿が見えます。

鶴太郎

ボクの与兵に何してんのっ!

鶴太郎は大きな声で言いながら吾助たちの所に行きました。

吾助

しっ

と、吾助は唇の前に人差し指を立てます。
とても優しい顔をしていました。

鶴太郎

首を傾げ、目をぱちくりさせます。

与兵

すぅ……。

鶴太郎

寝てるの?

ちょこんと与兵の前に座り、床の上に手をついて、与兵の顔を覗きこみます。

吾助

起きてるように見えるか?

鶴太郎

ううん。

鶴太郎はじーっと二人の様子を見ています。
しばらく見つめて、はっとします。

鶴太郎

ボクがこの間に入ればいいんだ。

そして、与兵と吾助の間にぎゅうぎゅう入り込みます。

吾助

おい……。

吾助の膝の上にも乗り、グイグイ体をねじ込んできます。
無理やり隙間をこじ開けて座りました。

鶴太郎

ここ、ボクの席。

少しだけ遠慮してるのか、小さな声です。
けれど強く主張します。

吾助

お前、ホントにガキだな。

鶴太郎

ガキじゃないもん。

吾助

そうか?

鶴太郎

ぷぅ。

鶴太郎は与兵と吾助の間に入り、与兵の隣をなんとかして確保しようとしましたが、狭いです。



それでもギュウギュウ入り込もうとしていると、抱きかかえられ、吾助の足の間に座らされました。

ここも与兵の隣といえば隣です。

鶴太郎

…………。

鶴太郎は、変な顔をしました。

鶴太郎

パパ?

吾助

あ?

鶴太郎

パパと同じ匂いがする……。

吾助

お前を産ませた覚えはない。

鶴太郎

……。

鶴太郎は首を傾げています。
でも、居心地は悪くないのか、そこにいます。

吾助は鶴太郎を抱きしめ、頭をポンポン撫でてみました。

吾助

…………

ホントに父親になったような気分になりました。

吾助

いや、こんなにでかい
ガキがいるはずがない。

気を取り直します。

吾助

精神年齢はかなりガキだが、
歳はけっこういってるだろ?

鶴太郎

…………。

鶴太郎はビクっとします。

鶴太郎

かわいいお子様だぞ。

吾助

ホントにそうか?

鶴太郎

……たぶん。

ちょっと自信なさそうです。

鶴太郎

みんなに言われるもん。
まだまだ子供だって……。

吾助

「みんな」って、人間か?

鶴太郎

…………。

しばらく黙っていた鶴太郎ですが、首を振りました。

鶴太郎

ボクは……、
少しだけ人間の血が入ってる。

鶴太郎

だから「みんな」とも違うし、
人間でもない。

鶴太郎は悲しそうな顔をしました。

鶴太郎

与兵に言う?

吾助

…………。

吾助は自分の胸元でうつむいている鶴太郎の頭を撫でました。

吾助

言わねーよ。
言うんなら自分で言え。

鶴太郎

言わなきゃだめかな……。

吾助

さあな。

吾助は鶴太郎の後ろから、先ほどより傾いた月を見上げました。

鶴太郎

言ったら嫌われちゃうんじゃないかな?

吾助

…………。

吾助はすぐには答えませんでした。

吾助

お前のこと、
それくらいで嫌うヤツだと思うか?

鶴太郎

ん?

吾助

こいつ。

吾助が与兵の肩を肘で押します。

与兵

すぅ……。

与兵がユラっと揺れました。

与兵は寝るとすぐには起きません。
吾助はその間に、彼女を盗ったこともあります。

鶴太郎

…………。

鶴太郎は、月明りに照らされた吾助の顔を見上げます。

吾助

……どうした?

優しい視線を向けられ、ドキっとしました。

鶴太郎

…………。

鶴太郎は吾助の元を離れ、与兵のところに行って、後ろから首のところにきゅっとしがみつきました。

与兵

……ん。

それでも与兵は起きません。

吾助

ふっ。

吾助は音もなく立ち上がりました。

吾助

布団を敷くから、
お前も手伝え。

鶴太郎

んっ。

鶴太郎は、コクっとうなずきました。

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