――夕刻、基礎体力訓練の終わる頃。

　夕焼けに染まる修練所で、期待に胸を躍らせる二人。その二人の目に、エノクの姿が遠くに映った。

　両手をブンブンブンブン振るハルをなだめる様に、エノクが挨拶を交わしてくる。

　夕焼けで分かりにくかったが、メナの頬が紅潮していたように見えた。

　ハルにシーベルトで習った基礎中の基礎を再確認させるエノク。それを行う上で、メナにその内容を確認させていく。ハルの状態を知りつつ、アウトプットさせる形だ。

　ハルが最初に構えた型から、メナは練習を始める。きっちりと一つ一つの動作を確認して、反復練習が出来るくらいまでにはなった。

　エノクの説明は、それ以上ハルの耳には届かなかった。

　意外だった。刀を作っていた者として、あれほどの性能を秘めた武器が、他の片刃剣と同等の扱いを受けていた事に。ハルからすれば、刀特有の剣術があるものと当然考えていたからだ。

　正伝剣術とは、

ディープス周辺諸国で

最強と認められている剣術だ。



長剣に限らず、槍、ダガー、

レイピア、それにメイスや棍棒、

乱戦になった時の格闘戦まで

総合した戦闘体系が

細部にまで纏め上げられているのだ。

　歴史上、

刀は３０年前に他国から伝来した武器。

その時代、

絶対的に確立された

正伝剣術の影に隠れてしまうのも

無理はなかった。

　日が暮れるまでエノクとの訓練は続いた。とても詳しい説明で、ハルもメナも確かな手応えを感じていた。

　食堂では、ジュピターとリュウがテーブルを挟みカードで遊んでいる。コインを何枚も積み合い、どうやら勝負は架橋に差し掛かっているようだ。

　ジュピター優勢の状況が見て取れる。ジュピターは余裕の表情を浮かべ、手持ちのコインを手の中で遊ばせている。

　一方リュウは、困った顔で手札を眺めている。

　勝ち誇ったジュピターのカードを眺め、リュウはさらにカードを重ねた。

　完全に勝負は決着したようだ。

　テーブルの上の積まれたコインを、リュウは手元に引き寄せた。そして緩んだ目尻をしてメナに話し掛ける。

　ジュピター達と同じテーブルの椅子を引きながら、ハルは苦笑いしながら言った。