……よい満月だな
……はい。とても綺麗です
戦の手ごたえはどうだった、柳?
……壮絶でした。すぐ近くで味方が討たれて行くのを感じるのは想像よりも遥かに過酷でした
高山家の身分は大幅に下げさせた。もはや奴らには足軽と遜色ない身分しかない。儂の配下であることを考えれば、身分上はお前の方が上だ
ですが、僕は殿の捕虜の身……どうあっても身分が下になるようなことは……
身分などどうでもなる。儂は戦に己が利しか望まぬ者に与える恩賞などないと思っておる。高山家には身分の回復はあり得ぬ
殿は……この一連の戦をどうお考えなのですか?
……妖怪とは、何なのだろうな?
は?
皆は妖怪を害、討つべき敵と語る。だが、自然というのは無作為に有害なものを生み出しはしない
今も国中で戦が行われておる。そうなれば傷つくのは自然も同様だ。故に妖怪とは、単に儂らを惑わせる存在ではなく、戒める存在なのやもしれん
…………
ならば、我らが望む結末は「和睦」以外にあり得ぬ。機内の動きも芳しくは無いし、どこかで切をつけるべきだとは思っている。別に儂は妖怪を味方に付けようなどとは微塵も考えてはおらんぞ? 人の争いは人の手のみで治めるべきだからな
では何故……僕を捕虜にしたのですか? 先の戦に、何故僕を参陣させたのですか?
気に入ったから、ではおかしいか?
えっ、いやそんなことは………
失礼、松尾弾正殿でよろしいかな?
いつの間に……近くにいたんだ?
……誰だ? 見ない者だが
失礼、拙者は各地を歩きながら詩吟を嗜む者。此度は妖怪と戦を繰り広げる大名がおられると聞き、勝手ながら参上した次第
松尾殿がよろしければ、この場で戦勝利を祈った詩を読ませて頂きますが、よろしいでしょうか?
殿はそういった迷信じみたものは嫌いなはず。とはいえ、この御仁は断って帰るような雰囲気じゃないな……
……構わん。読んで聞かせよ
はっ。ありがたき幸せ。では失礼して筆を………おっと
しまっ………との…………!!
ごふぉ……!!
………殿っ!!
……ふむ、案外容易かったな。では、これにて失礼
ぐっ……ごほっ………っ
血が……全然治まらない。誰か………誰かっ!!
柳? 大声出していったいどうし――――
た、弾正様!? 何があったのですか?
妖怪の刺客に襲われたんだ。僕がいながら……守れなかった………!!
弾正様が避けられないような不意打ちですもの……仕方ないわ柳。あまり自分を責めないで
弾正様、心配なさらないでください。すぐ治療いたしますので……
柳?
殿…………
ごふぉ……っ!
殿……僕はここで過ごしてきて、少しずつですが人間に近づいているのではないかと感じ始めています。現に、僕は今の自分の感情に戸惑っている
殿を傷つけた妖怪を……斬り殺したくて仕方ないんですっ!
柳? 何してるの?
鬼の僕なら耳もいいし足も速い。今から走ればまだ間に合う
………何を言ってるの?
ごめん、蘭。行かせてほしい
僕は、松尾弾正様の忠臣だから。……殿を頼んだよ
柳!! 待って!!