第1幕
金色の影

ファウスト

いやー、初対面の大人をカフェに連れ出すなんて…やるりますね、サヴァランくん!気に入りました!!

サヴァラン

何でうちにいる!?

ファウスト

何でって…評判のキャンディを買いに来ただけですが…

サヴァラン

こいつ…

あれから俺は、この怪しげな男ーーファウストを近所のカフェまで誘い出し、ことの真意を問いただしていた。しかしこの男、あくまでも自分から本題を切り出す気は無いらしい…俺はひとつ大きな溜息をつき、『ただの学生』から『ただの怪盗』にスイッチを切り替えた。

サヴァラン

……『私』に、何かご用かな、ジェントル

ファウスト

………ふふ、ようやく認めて下さったのですね

ファウスト

ええそうです。ご用です、怪盗キャラメリゼ

少し前に届いたアイスコーヒーのグラスを弄びながら、ファウストは満足げに笑みを零した。

ファウスト

昨晩も話しましたが…僕の家の遺産を取り戻してほしいのです。これは、貴方にしかできない事なのです

サヴァラン

………いいよ。やってやる

ファウスト

本当ですか!?いや…もっと難航するかと思っておりました…

ファウスト

話が決着つかなければ…今夜は寝かせない覚悟だったのですが…

サヴァラン

何する気だったんだよ…

ファウスト

早く話に決着が付くなら、それに越した事はありませんね♪

サヴァラン

言っておくが…私は今まで、あくまでも趣味として怪盗をやっていたんだ。絶対成功するとは限らないからね

ファウスト

その時は僕もお縄ってことですか?

サヴァラン

そういうこと。その覚悟はある?

ファウスト

ええ、ありません

あっけらかんと言い放つファウストに、俺は思わず口元に持っていったグラスを取り落としそうになった。

サヴァラン

お前なぁ…

ファウスト

失敗はしませんとも。そう神がおっしゃるのですから…

サヴァラン

神?

ファウスト

ええ、神です。

ファウスト

我がゲーテ家が信仰する神…彼が、僕に啓示を与えたのです。

サヴァラン

それと私に、一体どんな関係がある?

ファウストは興奮冷めやまぬ、というように、どこか遠くを見つめるような目をしながら言った。

ファウスト

神は仰せになりました…『世界に散らばる七つの遺産、金色の影、その力を以てして、在るべき場所に納めよ』と…

サヴァラン

それが…?

ファウスト

ゲーテ家の遺産は、神がおっしゃられたように、世界中に分散しております。それを在るべき場所…つまり、ゲーテ家に戻すのは、今や底辺に堕ちた僕の力のみではどうすることもできません。

ファウスト

そこで必要となるのが、金色の影…つまりあなたです。

やばい、こいつが何を言ってるのか理解できない…。

サヴァラン

比喩表現の解釈にしては無理矢理過ぎないか…?

ファウスト

いいえ、金色の影に関してはかなりの自信があります。夢の啓示で見た影は、まさしくあなたのものでしたから。

サヴァラン

夢って…おおざっぱすぎやしないか…?

ファウスト

啓示とはそういう物ですよ。

無理矢理丸め込まれたような気がしないでもないが、これ以上聞いたところで俺には理解が及ばないだろう。

サヴァラン

そ、それで?最初は何を盗んで欲しいんだ?

ファウスト

盗むなんて人聞きの悪い…取り戻すだけですよ

ファウスト

ですが、そうですね…せっかく依頼を受けてくれたのなら、気が変わらないうちにお願いしておきましょうか。

ファウストはアイスコーヒーを一口飲み、一呼吸置いて言った。

ファウスト

最初の遺産は、アマリリス夫人宅にある『金獅子の扇』です。期待しておりますよ、怪盗キャラメリゼ。

第1幕3ホール目 金色の影

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