第1幕
突然の刺客

サヴァラン

はあぁぁぁ……

ベルリーナ

………

サヴァラン

疲れが取れないよぉ…

ベルリーナ

………

サヴァラン

はあぁぁぁぁぁぁ…

ベルリーナ

……ブリュレさん、うるさいです

サヴァラン

やっと反応もらえた!!露骨な反応欲しいアピールしてるのになんで無視するのさリーナ!!!

総計8回目のため息でようやく声をかけてくれた俺の想い人…スノーボール家の令嬢・リーナ=アラモードことベルリーナ=スノーボールは、氷点下の瞳で俺を射抜いた…ああ、その目すら素敵だよ…ベルリーナ…

ベルリーナ

その反応が面倒だからですよ…

サヴァラン

だって、リーナ今日はずっと本ばかり読んでるし、週末の予定聞いても上の空だし…

ベルリーナ

週末はアマンドさんと約束があるので

サヴァラン

アマンド仕事が早い!!

アマンド

本を読んでる時のリーナは、話しかけても本当に反応ないものね

そう言ってベルリーナの背後からひょっこり顔を出したのは、先ほど話に出てきたアマンド=ショコラその人だ。

アマンド

もうそんなところまで読んだのね…!本当に早いわ…

ベルリーナ

ええ、今日で読み終わってしまうかと…あの、次の巻も貸していただいてよろしいでしょうか?

アマンド

そういうと思って…ちゃんと持ってきたのよ♪はい、これね

アマンドがベルリーナに差し出した本の表紙には、彼女が読むには珍しいと思える題だった。それは…

サヴァラン

『怪盗アルセーヌ・ルパン』…?リーナ、怪盗なんて興味あったんだ?

ちょっと嬉しくなって食いつき気味に聞くと、ベルリーナは真正面から俺を見据え……

ベルリーナ

ええ、最近話題になってるでしょう…怪盗キャラメリゼ

アマンド

前助けてもらってから、急に興味が湧いたみたいでね…怪盗について色々知りたいんだって!

サヴァラン

へえー、そうなんだー…へへ

ベルリーナ

ええ。彼は盗んだものを私利私欲のために使うと言いますが

サヴァラン

……あれ?

ベルリーナ

中には、アルセーヌ・ルパンのように人の役に立たせることが出来る怪盗もいると聞きまして…

サヴァラン

あ、あれあれ??

ベルリーナ

読ませていただいたところ、彼はとても紳士的で好感が持てますね……あの方と違って

サヴァラン

ぐはっ!!!!

全力でディスってきた

アマンド

どうしたのサヴァラン!?

サヴァラン

い、いや…何でもないよ…なんでも…

ベルリーナは、怪盗キャラメリゼの正体が俺だということを知るただ一人の人物……だった。昨日までは。そんな彼女からの真正面からぶつけられた言葉は、俺を消沈させるには十分すぎるものだった…心が痛い…

女子生徒A

アマンドー、先生探してるよー!

アマンド

え?ほんと?分かった、すぐ行くわ!

アマンド

リーナ、本返すのはいつでもいいからね!

ベルリーナ

分かりました。メルシー、アマンド

アマンドが立ち去ったことを確認し、俺はベルリーナにずいっと顔を寄せた。

ベルリーナ

なんですか

サヴァラン

お話があるんだが

ベルリーナ

………ええ、分かりましたよ…屋上ですね

サヴァラン

あれはいくら何でも酷くないかな!?俺泣きそうだったよ!?

ベルリーナ

事実だから仕方ないではないですか。実際、あなたはその盗みの技能を誰かの役に立てているので?

サヴァラン

それは……でも、そういうのは本人がいる目の前でいうことじゃないだろ!?

ベルリーナ

私、陰口は嫌いですから

サヴァラン

もおぉぉぉぉ!!そういうところほんと好き!!!!

怪盗に関しての話を赤裸々にする時は屋上で。言葉を響かせる障害が少ない屋上は、多少人がいても声が届かないような場所をキープすることが出来るのだ。本日5回目の愛を叫んだ俺に多少引きながら、ベルリーナは続ける。

ベルリーナ

少しは人のためになることを考えたらどうです?義賊をしろとは言いませんが…

サヴァラン

人の役に…なぁ…

そう言えば、つい最近そんな話がなかっただろうか。俺はゆったりと記憶を思い起こし…そしてそれは昨夜の記憶にぶち当たった。

ファウスト

あなたに、その類希なる能力を駆使して、僕の家の遺産を取り戻してほしいのです

サヴァラン

ベルリーナ

なにか思い当たることでも?

サヴァラン

ああ、あるある!!あった!!

ベルリーナに鼓舞された(最も本人はそんな気はさらさらないだろうが)ことにより、面倒だと振り払ったその言葉が強い熱を帯びた…もっと彼女に認められたい…そのためなら俺は…!!

サヴァラン

やってやろうじゃないか…本当の、『お仕事』としての怪盗って奴をさ…!!

ベルリーナ

はぁ…?全然状況が理解できませんが、頑張ってください

ちょうどそのタイミングで予鈴が鳴り、俺たちは教室にもどった。その日は変わったことも何もなく、いつも通りベルリーナを家に送り届けてから、俺は自宅のキャンディショップに向かった…。

サヴァラン

母さん、ただいま。何か手伝うこととか…

サヴァラン

……な…!?

うふふふ、そうなんですか…!おかしい…!!

あら、お帰りサヴァラン。お店の手伝いは大丈夫だから、お風呂の準備をしてくれないかしら?

サヴァラン

あの…母さん、その人は…?

へ?ああ、この方ね。

今日初めてお店に来てくれた方なのだけれど、とってもお話が面白くって…つい長話しちゃったのよ

ファウスト

おや、もしかして、先ほど話されていたご子息の方ですか?

ええ、そうです。ほらサヴァラン、ちゃんと挨拶なさい。

サヴァラン

あ…ああ…えっと…

ファウスト

初めまして、サヴァランくん。
僕は…ファウスト=ゲーテと申します…以後、お見知りおきを

Oh...mon dieu...

第1幕2ホール目 突然の刺客

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