Wild Worldシリーズ

コール歴5年
未来視の未来

10

   

  

  

 オレはレダ王みたいな立派な大人になるんだ!!

 そして困っている人たちを助けてあげるんだ……!!

 かつて、親友に言った言葉。

 今でもまだしっかりと覚えている。

 子供のヒーローごっこみたいな言葉だと思うが、それでもクローブには十分だった。

 今でもまだ胸にある。

 レダ王への敬意と忠誠。

 

クローブ

カノン様……

  つぶやく名前。


 
 このまま動けばどうなるか分かっているはずだったが、辛かった。







  

 

 カノンの家は、いつのまにか森リスたちのたまり場になっていた。

 人が多いのはうっとおしいが、森リスたちがたくさんいるのは楽しい。

 カノンは、森リスたちがいつ来てもいいように、りんごのある場所を教えていた。



 森リスたちは、

異紡ぎの森が好きだ

 と言った。


 
 森リスたちの言葉が分かるわけではないが、カノンはそう聞こえた気がした。

カノン

私もここが好きだ

 森リスたちは、カノンが差し出した一つのりんごを寄って集ってみんなでかじっている。

 カノンの手元には、森リスたちがおみやげに持ってきたドングリが転がっていた。


 片手でドングリを玩びながら森リスたちと会話を続ける。

カノン

ここは静かで穏やかだ
木々や植物などの自然、お前たちのような小動物とものびのびと暮らしていける

 この森はいいところだよ。たまに悪い人間も来るけれど、春はたんぽぽいっぱい咲いて、夏は木が涼しくしてくれて、秋は葉っぱ遊びが楽しくて、冬はカノンの家が暖かい。

カノン

いつでも来るといい
私がいなくてもりんご食っていいからな

そうさせてもらうよ、遠慮なく

カノン

少しは遠慮しろよ

  カノンが笑うと、森リスたちも嬉しそうに飛び跳ねる。
 


 そう、カノンは笑う。

 ――人間のいないところでは……




 別に人間が嫌いと言うわけではない。

 だが、幼いころの経験から、警戒心が人一倍強い。

 大切に思っているコールや、歩み寄ってくるクローブに対しても、心を開いているわけではない。

 理由はただ、“人間だから”

 悪い人でないことはもちろん分かっているが、潜入意識は拭えなかった。


 カノンは、自分の危うさを感じていた。

 人間であるのにも関わらず、人間と上手く生きていけない。

カノン

…………

 今更だ。

 今更、どうしようもない。

 どうにかするつもりもない。



 だから、ある意味では迷いがなかった。

カノン

……なぁ

 カノンが声を落として呼びかけると、森リスたちは不思議そうに小首を傾げた。

カノン

もし、私が……


私が……

 言いながら、俯き加減に声が小さくなる。

迷いはなくても、寂しかった。

カノン

 私は、何を言おうとしている……?

こんなことを言って、どうする?

カノン

……やっぱいい

なんでもない
すまんな

 言ってはいけないこともある。

 これがそうだと判断した。

 森リスたちは、カノンが落ち込んでいると思ったのか、元気を出せと飛び跳ねる。


 そんなやさしい森リスたちに、カノンはフッと笑うと、どんぐりを回した。

 その周りを、森リスたちが駆け回る。



 時間は流れていく。

 それは、恐ろしいほど無情だった。
 
 来てほしくない刻も、必ず、訪れる。


 そのとき、自分はどうするだろう。


 自分に未来を変える力があるのだろうか。

カノン

……コール

 つぶやく名前。


 カノンは、覚悟を決めていた。


 もしかしたら、未来は変わらないかもしれないけれど。


 それでも、自分が視た未来ではなく、もっと明るい未来がやってくるものと信じたかった。



 たとえ自分がどうなろうとも……





 

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