Wild Worldシリーズ

コール歴5年
未来視の未来

9

   

   

   

 ―国が滅びる―



 カノンがそう言わずとも、城の中の者は皆うすうす気がついていた。

 
 コール王のやる気のなさは目に見えているし、各地であやしい動きもある。

 
 内乱が終わり一息ついた隣国も、何かとこの国に干渉しようとしていた。
 

 その手の報告は逐一聞かされているというのに、コールはとても王とは思えないほど無関心で、自分のことだけにしか動かなかった。
 

コール

5年か……

持った方でないのかい?

 
……それもそのはずだった。



コールは、最初からこの国を滅ぼすつもりだった。



 
 隣国とは裏で手を結んであるし、地方の反乱軍には好きにさせている。

警備兵には役に立たない格好を義務付け、国民からは無駄に搾取してきた。

コール

悪王レダ
あなたはこの国を命を掛けて護ってきた
それは誰もが認めること

そしてあなたはこの国を命よりも大切だと言っていた


 コールは、どこか上の空な表情をしている。

 だが、口の端を吊り上げると、穏やかでないことを言った。

コール

この国が滅んだとき、やっと私も救われるよ

 静かな王座。

 左手で上品にワイングラスを持ち、揺らした。

 磨きぬかれたグラスには、鏡のように自分が映る。

 それを見て、コールは満足そうに目を細めた。

コール

 あぁ、今日の私も美しい……

 それを遠目で見ていた側近が肩を竦めた。

 自分は何も言わず、コールが自分の世界に入っていく様を横目で見ながら、てきぱきと書類整理に勤しんでいる。

コール

反乱軍が都合よく暴れてくれれば、それに乗じて隣国ラルタークが攻め入ってくる

反乱軍は私を処刑し新たな国を作り上げるため、ラルタークは内戦を始めた隣国の治安維持のためと大義名分を振りかざして



 正義をかざして、人は武器を取り血を流す。

 それが正しいことだと信じて。




 中には血を流さない別の方法を考える人もいるが、それを求める人もいるが、流れになったら止められない。


 大河は逆流なんかしない。


 その流れを生み出すのに、コールは一役買っていた。




 多くの人は、コール王が全て悪いと言うだろう。


 それも間違いではない。



 コールの手のひらの上で踊っていることにも気付かないまま、自らの正義を振りかざし、自分達の未来の為にこの城に攻め入ってくる。


 コールにとっては、それがとても滑稽だった。

コール

どの道この国は滅びるね

 恐ろしいことを口にしながら、コール王は自己陶酔に浸っていた。

コール

ねぇ、歴史上最高の威厳と人望を備えたレダ王さん


 虚空に呼びかける。

 返事があるはずはないと知りながら、一人で好きなように話した。

コール

あなたのだーい好きな国民が、あなたの居城だったこの場所に攻め込んでこようとしているよ
残念だったね、この国は永遠に存続しやしない
これがあなたの成した結果だよ

コール

あの時彼女さえ殺さなければこんなことにはならなかったのにねぇ
彼女1人殺しておいて、自分は人徳ある王だなんて、そんなのってないよねぇ

コール

でもね、この国も終わる
彼女の無念も、これでやっと晴らされる私は悪王レダの作り上げたこの国を決して認めたりはしない

 コールの目つきが鋭くなる。

 それは陶酔ではなく、ひどい憎しみのこもった目だった。
























     

   

カノン

私は護りたい

私を救ってくれたコール王を
コールが統括するこの国を

クローブ

……

 淡々と語るカノンを、クローブは黙って見つめていた。

 カノンの身に起こったこと、カノンの能力、正直クローブには非現実的な世界だった。

カノン

あの時の辛さ、寂しさ……惨めさ、お前には分からないだろう

クローブ

…………

クローブ

 決め付けないでほしい

 けれど、そう言えなかった。


カノンの気持ちはカノンのもの。

 クローブが何を言っても、カノンは自分を変える気はないだろう。

 お互いそれを何となく分かっているから、好きなように話し、ただ聞いていた。
 

カノン

幼い私に初めて手を差し出してくれた
それがコールなんだ

クローブ

コール王への恩義……

カノン

私が動くには十分な理由だ

……この国を、コールを護りたい
そんな風に思ったのは初めてなんだ……

クローブ

…………

 カノンが静かに目を伏せると、クローブはワインを1口含んだ。

 
 カノンよりもクローブの方が、これからの未来がうっすらと見えていた。







pagetop