え……ええ、まぁ。
今、彼の家に厄介になって、
この女は、
そう……ですか。
元気でいるのですね。よかった
誰だ?
……私は
女は少しばかり逡巡した。
いきなり現れた見知らぬ男だ。
灯里の知り合いだと名乗ったところで
それが真実かどうか知る術はない。
警戒するのは当然だろう。
……怪しい者じゃない
「そう言う輩が一番怪しいだろうに」
心の中でそう言う自分がいる。
だが、
できることなら鐘が鳴るまでに
何か新たな情報が欲しい。
戻りたいのでしょう?
元の世界に返してくれる。
そんな口ぶりだったのに
未だに戻ることができないのは
そこに何かあるのだろう。
何か、という漠然としたものとして
思い浮かべるのは
時計塔の彼女が
救ってほしいと願う
「誰か」のこと。
自分がそこに辿り着けば
彼女は最初の「十一月六日」に
戻してくれる。
そんな、気がする。
女はあたりを見回した後、
声をひそめた。
私は
私は西園寺瞳子。森園灯里の母です
母!?
嘘だろう? と一瞬思ったが
あれだけ様々な
「十一月六日」に戻されたのだ。
二十年ほど遡った「十一月六日」に
飛ばされたっておかしくはない。
それにしても
とうとうネタが尽きたのか
あっさりと受け入れてしまう自分も
大概ではあるのだが。
じゃあ、灯里を捨てて西園寺侯爵と再婚したって言う……
そして受け入れてしまう理由の
ひとつとして
やもすれば自分よりも若い娘が
同級生の母を名乗っていること。
その事実が
この世界が数十年前だと思わせるのに
一役買っているのだろう。
何と言われようとも申し開きは致しません。それがあの子と、あの子の父親のためなら
この女が灯里の母なら
この女は
「西園寺撫子」の母でもある。
本来なら話が聞けるはずもない
亡くなっているはずの人だ。
灯里も、撫子も、侯爵も、
そして自動人形の「撫子」についてすら
知っている可能性がある。
それにしても……撫子に瓜二つじゃないか
自分の知る「撫子」は
侯爵がそう呼んだ娘――
人形かもしれないあの娘。
「オリジナルを模している」
であろう、あの娘。
その娘に
目の前の女は酷く似ている。
親子とは言え、
ここまで似るものなのだろうか?