あんた、西園寺撫子か?

……






問いかけに
撫子に似た女は怪訝な目を向ける。


……あなたは?

他人に名を問う時は、まず自ら名乗るのが筋というものでしょう?

あ、お、俺は、





口籠った。



「大庭晴紘」と
名乗っても大丈夫だろうか?

この名は連続事件の容疑者に
なってはいないか?



また聞く耳も持たず
通報されるんじゃないのか?





そんな考えがよぎる。



























でも


















鐘が鳴れば













……大庭晴紘。
森園灯里の家であんたによく似た娘に会った。
この西園寺の屋敷でもだ



俺は
別の十一月六日に戻ってしまう。

もしあんたが「西園寺撫子」なら……


だったら名乗ったところで
そのリスクは大したこともない。
































……森園、灯里




だが、
女は違うところに反応を示した。

あなたは、あの子を知っているのですね

あの子?




この女は、



























自動人形の「撫子」は
灯里の父親の作品。

人形の年齢を数えるのも
おかしなものだが
彼を「あの子」と呼んでも
おかしくない程度には歳を経ている。





人形が此処まで好き勝手に喋るのか
と、いうところはあるけれど。

































時計塔にいた彼女でも
灯里を「あの子」と呼ぶことは
なんらおかしくはない。


時計塔とは言え他人の家。
外から自由に入り込める場所ではない。

あの場にいたのなら
灯里と何らかの関係がある
ということだ。







ただ、それだけでは
彼女の正体は不明のままだが。




























灯里は幼少期に
侯爵邸に引き取られていた、と
木下女史は言っていた。

だったら
オリジナルの西園寺撫子とも
面識はあるだろう。



目の前のこの彼女が
侯爵邸から出て来たことも合点がいく。










ただ問題は
彼女が既に亡くなっている
ということだが

そのこと自体が嘘だったなら
こうして現れてもおかしくはない。


しかし……何故死んだと公表する必要がある
















この女は










































誰だ?











【陸ノ弐】十一月六日、四度・参

facebook twitter
pagetop