会議室――

会議室に戻ってきた桐島さんの後ろから、二人の女性が現れた。
一人は、スーツ姿にメガネをかけた成人済みと見られる女性。もしかして、この人が、例の新しい部下の人だろうか。
もう一人は、そのスーツ姿の女性の裾を持つ、齢五、六の少女。多分、この少女が依頼の対象者だ。

桐島

つう訳で、依頼人と俺の新しい部下だ。
ほれ、香澄(かずみ)あいさつ

待って下さい、桐島さん!
そもそも、ここって…

桐島

入る前に説明したろ。

確かに、説明は受けました!ここがどんな場所で、どんな人間が働いているかも!
だからこそ、だからこそ、納得がいきません!

こんな……こんな≪無能力者集団≫に頼るなんて!!
屈辱じゃないんですか!?

彼女の大声で、裾を握っていた少女がビクッと驚き、そちらを向くが、彼女は気づかない。

こんな、当たり前の力すらない人間に、今回の件を任せるつもりなんですか?!

桐島

任せる。
そもそも、上に匙投げられてんだ。知り合いに、個人的に頼んで何か問題あるかよ

大有りです!!
桐島さんは、今回の件の重要性がわかってません!≪超能力者≫に頼むならまだしも、よりよって≪無能力者≫しかいない場所に頼むなんて…

汐音

正気じゃない、とでも言いたいの?

寿羽

し、汐音くん!?

…その顔、資料で見たことがあります。
宮原 汐音、警察本庁などの公的機関にハッキングを仕掛けて捕まったものの、未成年だったために刑が軽くなった、…犯罪者。

貴方のような、犯罪者がなんの縛りもなく働いていることだって、信用できない理由になります

汐音

あっそ。別にアンタに好かれたところで僕にはなぁんの取り柄にもならないからいらないけどさ

汐音

資料には、こう書いてなかったわけ?
「監視は別人に移行させた」って。

汐音

あと、一応ここは、人の会社の中で、ついでに言えば長である社長もいる訳。
そこに招かれた立場な癖に、自己紹介の一つもできないアンタに、常識語られても困るね

≪無能力者≫の犯罪者が、常識を語るんですね

汐音

常識じゃなくたって、礼儀だよ。

汐音

和満さんは大変だね、こんな礼儀知らずが新しい部下だなんて。

貴方…言わせておけば…!!

二人はまさに一触即発の空気に。
しかし、それを止めようとする人は現れない。そう思い、一歩踏み出した私だったが、意外な人物がその言い合いを止めた。

け、ケンカしちゃだめ……!!

いつの間にか、二人の間にある机の上で、さっき裾を掴んでいた少女が、立っていた。
その瞳に涙を浮かべて、小さな両腕を広げ、仲裁に入ろうとしていた。プルプルと震えながら、「ケンカしちゃだめ」と俯きがちに言う。

け、ケンカは、どんな理由があってもダメだって、学校の先生が教えてくれたから、だ、だから…

寿羽

…汐音くん

汐音

…はいはい、分かったよ

桐島

香澄、お前もいい加減にしろよ。
子ども泣かすな

ですが…!!

桐島

…いい機会だ。一つ言っとくけどな。
お前の凝り固まった、貰いモンの思想通りじゃねぇんだよ、現実は

桐島

そもそも、俺は【その思想】持ってて、この仕事続けてる奴なんて見たことねぇし、元々俺そっちサイド嫌いだし

そう嫌そうに言って、桐島さんは机の上の少女に向かう。
そして、少女の背丈に合わせてしゃがみこんだ。

桐島

ごめんな、大人がこんなんで。
よく、止めてくれた。ありがとう

ましろ、役に立てた、の?

桐島

おぅ、十分だ。

良かった……

寿羽

そこにいると、危ないから。
こっち来る?……あ、名前まだ聞いてない…

少女は、四つん這いでヨタヨタと歩いて私の元にやってくる。私は、その手を支えて机が降りるのをゆっくり待った。
きちんと地面に着いたのを確認して、私はしゃがんだ。

寿羽

お名前、聞いてもいいかな?

麻白

あ、天根 麻白(あまね ましろ)、です。
お姉ちゃんは?

寿羽

私は、寿羽って言うんだ。よろしくね、麻白ちゃん

麻白

うん!
寿羽お姉ちゃん!


その②に続く
 

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