会議室――

納得いきませんよ、なんでこんな…

桐島

はぁ、お前も強情だねぇ…

彼女が納得のいく理由を出さない限り、自己紹介はおろか、麻白ちゃんを預かることもできない。
でも、彼女は、【無能力排斥派】の思想に生きているみたいだから、私たちがいくら説得しても寝耳に水、右から左に流れてしまいかねない。かといって、社長の腐れ縁らしい桐島さんの部下である以上、今後顔を合わせることはたくさんあるに決まってる。

寿羽

今回の案件で、できるだけ、距離は詰めておきたいな…

寿羽

どうしたら…

麻白

寿羽お姉ちゃん?
どうかしたの?

寿羽

ううん、なんでもないよ。

寿羽

麻白ちゃんは、まだこんなことは知らなくっていいんだ。だって、麻白ちゃんは…あれ?そういえばこの子、どっちだ…?

ふと、麻白ちゃんが≪超能力者≫か、≪無能力者≫のどちらか聞こうとした、その時だった。

麻白

ひっ…!

机が、大きく叩かれる。その音に、麻白ちゃんは怖がって私に抱き着いてきた。私はそれに応じながら、音の発生源の方を向く。
生憎と、麻白ちゃんの頭で隠れてしまうが、それでもはっきりわかる。---まだ、納得のいかない彼女が起こしたのだろうって。

強情でも構いません!
こんな、「普通以下」の人間に頼むなんて正気じゃないこと、やめていただくまでは何を言われても…

またしても叩かれたのは机。でも、それは彼女の言葉を遮るためもののようだった。

桐島

あー…悪いな。

桐島さんはそういって、机から手を離して、私を見た。
…なんとなくだが、これから言われることに想像がついて、この人は本当に優しい人なんだなと思ってしまった。

桐島

寿羽…ちゃん、だったか。

寿羽

…はい、合ってますよ。

桐島

悪いが、その子連れて、ちょっと外出てくれねぇか。

その子。
それは、まだ幼い麻白ちゃんのことだということはすぐに分かった。彼女がいま、私にべったりだから、桐島さんは私を名指ししたんだろう。

――――麻白ちゃんに、これ以上のことを聞かせないようにするために。

寿羽

分かりました。
…えっと、しばらく麻白ちゃんと、この辺り散歩してきますね。

私は、麻白ちゃんと目を合わせるようにしゃがんで、彼女の手を祈るように胸元で握った。

寿羽

麻白ちゃん、今からお散歩行こっか。

麻白

……。

麻白

うん!寿羽お姉ちゃんとなら!

寿羽

それじゃあ、私と麻白ちゃん、少し出ますが…。
社長、みなさん、あとはお願いします。

私は、麻白ちゃんの手を握って、ゆっくりと会議室をあとにした。

寿羽が依頼人の麻白を連れいなくなって。

春華

汐音。寿羽の居場所の追跡は端末でも可能か?

前、涼さんが脱走した時に使ったのが使えれば。
ただ、起動に少し時間はかかるけど。

春華

構わない。
一応、依頼はもう始まっている認識で動く。

汐音

了解、なにかあったら報告する

春華は、彼女の身の安全と依頼を遂行し始めた。
まず、ハッカーでもある汐音に寿羽の居場所の追跡を任せる。

桐島さん!どうして彼女を外なんかに…!
もし、誰かに襲われたりしたらどうする…

いっ…!

なにするんですか!

桐島

なにって、平手打ちだよ。
口で言ってきかねぇなら、しかたねぇだろ。

相変わらず、手が出るのはえぇ…。
女相手にも容赦なしかよー、流石すぎる…。

昔、何度も受けてたなぁ…。涼が。

桐島

いいか、一回しか言わねぇからよーく聞けよ。

桐島

お前の考え方なんざ、知りたかねぇんだ、こっちは。どうだっていいんだよ、んなもん。

桐島

たかが、普通より違う力があるからってうぬぼれんな。人間の価値は、そんなもんでほいほい決められねぇんだよ。

……しかし、もし、彼女を保護させることが目的なら、なにもここでなくとも…!!

桐島

そりゃあ、こいつらと同じだから…って、あー、そうか。お前には情報いってなかったのか…。

桐島

天根 麻白は、≪無能力者≫なんだよ。

桐島さん、それ…初耳なんですが

でも、まだ幼いんだし、発現してないってだけじゃない?成人になっちゃうと期待薄いけど、稀に大学生とかで遅く発現する人もいるって聞くけど

桐島

ま、尚の言う通りかもしれねぇが。
だとしても、いまは≪無能力者≫だ。

桐島

下手に≪超能力者≫の事務所に預けるより、あの子と同じ≪無能力者≫のいる場所に預けるのが、あの子のためにもなるだろ

春華

確かに…。
肩身が狭い思いは、幼いうちに覚えなくてもいい…。

桐島さんは、彼女の為を思ってここに依頼を……?

桐島

納得できないなら、しなくても構わねぇよ。ただ、もう依頼はしてある。その前提は覆らねぇし、覆させねぇ。

桐島

【無能力排斥派】思考が、そう簡単に変わるとは思ってねぇし。
とりあえず、長い目で見極めてみな。

言われてみれば、私はまだ、この会社をよく知らない…。先入観だけで、人を判断するのは、刑事としてあるまじきこと…。

…そう、ですね。
見極めて、みるのもいいかもしれません。この場所が、どんな仕事をしているのか…。

今までの無責任な発言、撤回させてください!

汐音

は……?!

机を盛大に叩いて、彼女は目を伏せた。
先ほどから、端末に目を遣っていた汐音は思わず声を上げる。

すべては、先入観で物事を見てしまっていた私のせいなのです。

香純

遅くなりますが、自己紹介を。
【超能力捜査課】に所属する、小池 香純(こいけ かずみ)と申します!

お、おぅ…?

香純

しかし、まだ今回の件、納得はしていません!
ですから、今後、あなた方の仕事ぶりを拝見し、見極めさせていただきますので、どうぞ、よろしくお願いいたします!!

お、おお!?
よくわかんねぇけど、かかってこいやぁ!!

この人、猛烈にめんどくさいタイプの人だ!!

春華

名前のこと、あとで寿羽に連絡をいれなければな

全く、急に姿消すの、やめてほしいわぁ

ふふ、ごめんなさい。

貴方なら、ここにたどり着いてくれるだろうって思っていたから、つい、意地悪したくなってしまったの。

まあ、嬉しいこと言ってくれるじゃない?そんなに褒めても、なにもあげられないわよ~

それで、貴方がお屋敷に来るのは、なにか報告があるからなのでしょう?話して貰えるかしら。

動きがあったみたいなのね、針に魚が食いついたって言った方がいいかもしれないわ

せっかく見つけたお仲間候補、『原石』の女の子…。

それはそれは、喜ばしい報告ですわね…!

勧誘にはどなたが?

あの双子に行ってもらうことにしているの。
ほら、相手は幼いのだし、オトナが行ったら怖がらせてしまいそうなんだもの

失敗しても構わないですわ、ただ、大げさに行動することに意味があるのだと。
……そう、双子に伝えてもらえるかしら?

はぁ~い、任せて

お嬢様ぁ?どちらにいらっしゃいますか?

あら、……では、またね。
今度の報告は、別の場所にしましょう。考えておくわ

さぁて、アタシも頑張っちゃいますか!
愛しい愛しい総括ちゃんのために、ね

「思想家」② 完

~第三章に続く!!~

第二章「思想家」②

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