洞窟の主 その3
フー フーーッ!
吹きかけられる生臭く熱い吐息。
むぐ……ぐぐぐ……
モンスターの噛みつきを防いでいるのは木彫りの杖のみ。
術の補助に使うそれで降りかかる暴力に立ち向かうにはあまりに無力……!
その時、アルマドの脳裏に仲間とのやりとりが蘇る――
俺たちは、ギルドに所属せずフリーでやってる。依頼の種類を選ばないなら、そのほうが都合がいいからな。
で、だ。 だからこそ当然、ピンチに陥ろうとも助けは期待できない。自分でなんとかしなけりゃならん。
ええ。
アルマド、お前は魔術師だ。一人で接近戦をやるには向かない。そんな状況に陥ったら、どうする?
まあ逃げますね。
なるほど正しい。……では、逃げられないほど囲まれたら?
死ぬんじゃないですか?
悲観的すぎるだろ……
だから言いたいのは、最低限身を守れる武術は身につけといてくれよ、って話さ。
リチャード! 事務所に毛虫がいる!! うぎゃあ! 親のかたき! 死ねぇぇ!
巻き添え食らったぁ~~ククリてめええ~~……
例えば、あんな感じで。
あれはククリが勇ましいだけでは……?
まあ、あれだ。周りの支援が期待できないからこそ――俺たちは仲間を信じなれけばならん。
なんとかして持ちこたえろ。そうすれば、必ず、助けに行く。
おおお……思わず惚れてしまいそうな一言。素敵です。
時は洞窟での戦いに戻る!
ぐぐ……ぐぐっ(そうは言いましてもねリチャード。肉弾戦にも限界がありますよ!)
グゴァーーーーーー!!
杖が……折れた――ッ!
胃袋に……収まれ!
その時!
ぐあああああ! 目が! 目が!
一面に光り輝くの光!!
紛れもない、これは先程洞窟を照らした炎の魔術。馬鹿な。アルマドに詠唱の時間などなかったはず。詠唱もなしに魔術は発動しない……!
やっと発動しましたか。
ぐおお、お! いつの間に呪文を!? そんなそぶりなど……!
魔術は発動に時間がかかるんです。近接戦では使い物にならないほどに、ね。
だからいっそ、発動を限界まで遅らせてみる。戦闘前にあらかじめ。それがわたしの戦い方。……一種の保険。
グッ グッ…だが、目が効かなくても貴様のようなヘナヘナ! 捻り潰してくれるわ!
わかっていますよ。こんなものは、ただの時間稼ぎ。
でも今は、それこそが目的! ――スネイク!!
復活!!!
!!!???!?!?!?
アルマドの背後から信じられない勢いで飛び出す影。モンスターを押し返し、そのまま自分ごと壁に叩きつける。揺るがす震撃!
彼の敵の額には2本のナイフが深々と刺さる。
ギイヨオオオオオオオオオ!!!
声にならぬ絶叫! 倒れる巨躯。
……勝負あり、である。
なんと……お二人で倒してしまわれるとは、なんというお強さ。
ご期待に添えたのならよかったです。
ええ、ええ、わたくし、感激しております。
ひええオバケ!!
スネイクの姿を見て飛び上がる村長。無理もない。戦いの直後である。スネイクの姿はモンスターの返り血で真っ赤であった。
お助けーー!
走り去ってしまう村長。
なんだよ……あんたらのために頑張ったのによー俺……
ま、無理もありません。普通の人は、戦いとは無縁の世界に生きているのでしょう。
ちぇっ これじゃ俺のくたびれ損みたいじゃんか。
まさか。お金はちゃんと頂いていますし。今回の功労者は間違いなくスネイク、あなたです。
あなたの頑張りは、わたしがちゃんと見ていましたよ。それじゃ不十分ですか?
……カーッ! こっ恥ずかしい! なんだそりゃ。やってられるか。俺は帰るぜ!
行ってしまいましたか。……本当に助かりました。ありがとう、スネイク。
洞窟の主 終わり