……東の部隊が退けられたか

どうやら、此度はここまででござるな。御老鬼よ、拙者たちはこれにて

つれないのぅ、子守侍よ。そう簡単に逃がすはずがなかろうて

なんだ？

――――破っ！！

っ――――久道さ

ぐあああ………！！

ほぅ、首は守りおったか

久道様……申し訳ございません。気づくのが遅れました

よい……背中を斬られただけだ。まだ動ける

ごめんなさい轟鬼様。仕留められませんでした……

不意打ちであれだけ手傷を負わせられれば十分よ、お嬢。よくやった

どうする……周りは既に撤退を始めている。この波に乗れば恐らく逃げ切れようが、この老鬼はそれでも追ってくる……そうなると被害が増すだけだ。久道様も怪我をしてらっしゃるし、わし一人で切り抜けられるか…………

……うん？

あれは……狸たちの火花でしょうか？

ああ、だがあの合図は……そういうことか。胸糞悪い

子守侍よ、死合いはお預けじゃ

なっ……！？

何故追撃を止めさせたのだ覚！！ あそこで追わなくてどうするのだ！！ 兵法の基本すら知らぬのか！！

お前はあの戦場を見てなかったのか？敵の松尾弾正が出てきた途端流れが変わりやがった。動揺してた兵を助けて攻めの薄かった東側に突破口作りやがった。あのまま戦ってたら巻き返されてただろうさ

あれだけ無残にやられても、か？ 奴らにそんな余力は残ってはいまい。ならば徹底的に叩いて何が悪い？ 今ここで念入りに潰しておけば再来など無くなるというのに

そうは思わねえな。人間達を最も縛り付けるのは恐怖だ。今回の戦で人間達にはどうやっても妖怪に勝てないって分かったはずだ。連中の戦意を根こそぎ折れさえすれば実際の被害は少なくて済むだろ。戦場をお前らの遊技場にするのはやめてくれ

……気のせいか、覚？ 先程からのお前の言はただ殺したくないという言い訳に聞こえるのだが？

なんとでも言え。もう遊びは終わりだ

…………ふんっ

真狸、前線の奴らを退かせろ。これ以上の追撃は無意味だ

それが主命ってんなら勿論やるっすけど……本当にいいんすか？ 後々の批判とかやばそうっすけど

そんな心配はお前はしなくていい。そこまで俺の仕事だ。これ以上野原を紅くしてたまるか

弾正様が東に撤退路を作ってくださいました！ 忠政様、お急ぎください！

そうか、弾正殿が……よし！ 我らも撤退だ！

…………

柳殿！ 掴まれ！！

えっ？

撤退する！ 急げ！！

……はいっ！

狼煙が上がっては仕方ない。山に帰るぞ、お嬢

……はい

…………えっ？

撤退だぁ～！！ 急げぇ～！！

………お嬢？

…………っ

……行きましょう