――DAY 5――
朝
樹海入り口
――DAY 5――
朝
樹海入り口
……
何かを引きずるような音と共に、
アダムスキー・アバルキンは
町へと早足で歩いていく。
その目の前に、人影が立ちふさがった。
……何、してるんだ?
……ヤロスラフか?
アダムスキーは
じろりとヤロスラフを見つめてから
低い声で問う。
何言ってる? 俺に決まってるだろう
……お前、なに勝手に俺の小屋から道具を取り出してる? 俺は、お前に使う許可なんざ出してないぞ
イリヤには出したんだろ?
ああ、正確にはお前の娘から頼まれたってとこか。
あいつを手伝ってやってる関係でたかがスコップを一本借りただけだ
……何をした?
アルセニーの墓に骨が残っているか確認した
……何だと?!
ヤロスラフは、はっと顔をしかめると
アダムスキーに殴り掛からんばかりに
掴みかかった。
何やってんだよ!
そんな罰当たりなことをして、なんでお前はそうやって、余計な事をして事態を悪化させるんだ?!
悪化ね。そう思いたきゃ思えばいいさ
詰め寄られながらも
アダムスキーは冷たく、
侮蔑のまなざしを落とす。
その剣幕に、ヤロスラフは
逆に気圧されて一歩引いた。
本当に、3年前から変わらないな。あんたは多少マシだが、何か起きればすぐに元通りになっちまう。わざとらしいくらいだ
あんたが独り身なら無条件で疑ってたぜ
な、なにを……
ま、あんたらが自分から変われないのは分かってたことだ。この町の現状は、誰かさんが甘すぎたせいだからな
え?
だが、このまま永遠に思い続けていられるなんて思うなよ
あんたの『神』は、死んだんだ
ヤロスラフは、何も言えない。
……それじゃ、俺は行くぜ
ああ、さっきの質問に答えておくぜ。何故墓を暴いたか、だったか?
……ただの私怨だよ。
あんな固い墓石を斧一本で砕くくらいだから、さぞや丈夫な体を手に入れたんだろうな?
……ああ、一つ言い忘れたな
あ、アダムスキーさん!
遠くから見つけたのか、
イリヤが町の方から走ってきた。
今日も早いな
アダムスキーさんも早いですね
まあな
何してたんですか?
アルセニーって男の噂を知ってるか?
はい、昨夜聞きました
その男の墓を確認してきた
……え?
地面が多少固いから手間だったがな。……骨は、一本も欠けていなかった
……
それともう一ヶ所
もう一ヶ所?
かつてこの町で使われていた、祭壇をもう一度壊してきた
え……祭壇、って
『かみさま』のための物だった、ただの石塊だ
アダムスキーはつまらなさそうに
樹海から目を背ける。
最近誰かがそこに立ち入った跡があった。すでに壊れてたが、念のため完全に、何をしようとしても機能しないように壊した
そして、ポケットから取り出した
小さな石の塊を雪面に落とした。
これで、魔力の源をここから得ることもできなくなる
…………これ、知ったら、また町の人たち怒りますね
だろうな
……アダムスキーさんは、怖くないんですか? 祟りとか、人に嫌われるのとか……
強引かもしれないが、この町の奴らには生ぬるい手段よりこの方が効く
……
誰のために、アダムスキーさんはやってるんですか?
さあな?
軽い口調のたった一語。
それだけで、
答える気はないことが分かる。
……僕、誰をどう信じれば良いのか分からなくなってきました
奇遇だな
アダムスキー・アバルキンは
薄ら笑いを浮かべた。
そいつは俺の日常だ