――――資料室

すぅ…すぅ…。

寿羽

いた…。
毎度思うけど、よく風邪ひかないよなぁ

寿羽

えっと、電気点けなきゃ。
確か、この辺りに…

んっ…眩しい…!

寿羽

朝ですよー、起きてください。

あー…その声はコトちゃんかー

寿羽

春華さんに頼まれて、起こしに来ました!

寿羽

おはようございます、八重ヶ嶋さん。
いい朝ですよー

はぁ、全然寝足りない~

寿羽

社長といい、八重ヶ嶋さんといい、いつも通りですね

この人は、八重ヶ嶋 尚(やえがしま なお)さん。
会社で常に寝泊まりしていて、資料室は彼の家になりつつある。社長や春華さんとは、古くからの付き合いらしい。

そういや、なんで今日はハルじゃないの?

寿羽

春華さんは、外に出かけられました。
社長がまた、やらかしたので、その時間を有効活用されてるんだと思います

あぁ、いつも通りってそういうこと…

涼も懲りないなぁ…

寿羽

春華さんと同じこと言ってる、さすが付き合い長いだけあるなぁ

じゃあ、いまは片付けしてるんだ

寿羽

はい、していただいています

やれって言ったんだろうなぁ…
コトちゃんこういうところ怖いからねぇ

寿羽

あと、春華さんから伝言です。

今日、午後からお客さまが来られるそうなので、それまでに、終わらせられる仕事は終わらせるように、とのことです

さっすがハル…
抜け目ないというか、しっかりしてるというか…

特にそれを俺に言うあたり、サボろうとしてたのバレてる

りょーかい、じゃあやれることやっとかないとハルに怒られちゃうね

寿羽

お願いします。
私は、一応社長の様子見てきます。またなにかしでかしてたら困りますから

はいよ、涼のことよろしくねぇ

寿羽

社長ー、片付きましたかー?

おいおい、わざわざ見に来たのかよ

オレはお前らの社長だぜ?
安心して任せてくれよ

寿羽

普通の社長なら、社員の背後にねぎ持って現れたりしません!!!

寿羽

それに、社長には前科がありまくりなので、こうやって監視に来てるんです!!!

前科って言うなよ!
なんかオレが犯罪者みてぇじゃねぇか!

オレは悪くない!
あんなにかわいらしいねぎが悪い!!

寿羽

いいからさっさと片付けてください!
仕事ができません!!

いつにも増して寿羽が理不尽…

寿羽

なにか言いましたか?

ナンデモナイデス!!

あ、寿羽だ
なんていうか、朝なのに夕方みたいな顔してるけど、大丈夫?生きてる?

これは、もう少し早く来るべきだったかな

寿羽

おはようございます…。
大丈夫です、生きてます

どうせ、涼さん絡みでしょ。
お前、すぐそういうことに首突っ込むもんね

寿羽

だって、放っておけないですし。
なにより…

なにより?

寿羽

あんな、あんな大人が《外偵》の社長だとか知られたくないじゃないですかぁ

あー…。

なんとも言えない顔で納得してくれたのは、宮原 汐音(みやはら しおん)くん。
一時期一世を風靡したハッカーで、今はこの会社の保護下に置かれている。
なんでも、警察にいたときに受けた恩を返しに来たとか。

そこは納得するところなのかな、汐音くん

まぁ、納得してしまいそうな私もいるんだけどね

理性と本能の間で唸ってるこの人は、赤沢 友(あかざわ とも)さん。
昔、春華さんに助けられた過去があり、それ以降彼女の忠犬と化した。社内では最年長の29歳。

でも、本当にいつも寿羽さんのおかげで、あの人もまだ、マシなんだろうと考えると、感謝しかないよ

汐音

マシなライン

事実だろう?

寿羽

そういえば、春華さんが、こんなことを…

春華さんの言っていたこと、つまりお客様の話を二人にもする。
そういえば、社長にし忘れちゃったけど、大丈夫だろうか…。

汐音

ふーん、依頼人かな。
ま、どっちにしろ僕には関係ないけど

ともかくは、把握したよ。
私の仕事はあらかた終わってるから、ほかの人を手助けしようか

寿羽さんは、手助け必要?

寿羽

私は、大丈夫です!
先日のご依頼だった浮気調査の資料をまとめるだけですから!

寿羽

赤沢さんさえよければ、その…。
八重ヶ嶋さんを手伝ってもらってもいいですか…?

わかりました。
無事にきちんと終えられるよう、お互い頑張ろうね。
では、また、午後に。

寿羽

えっと。
依頼人の名前と、配偶者について…。

寿羽

よし、今日も頑張ろう。
まずは、お昼までにこの作業終わらせないと!!

これは、「能力外探偵社」、通称《外偵》で働く職員の特殊性あふれる捜査日誌である。

序章「能力外探偵社」ー完ー

 ~~第一章へ続く~~

序章「能力外探偵社」②

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