Wild Worldシリーズ

コール歴5年
未來視の未来

8

   

   

   

ジャン

クローブ、何か楽しそうじゃん

 同期の警備兵、ジャンが話しかけてくる。

 ちょうど交代で、クローブと入れ替わりだった。

クローブ

あぁ、今夜デートなんだよ

 石造りの無機質な警備兵控え室。

 派手な王の趣味も、さすがにここまでは及ばなかった。

 否、王は城の隅々まで華美な装飾をしようとしたのだが、ここだけは警備総長が守り抜いた。

 壁際には訓練用の槍が整然と立てかけられてある。

 表面上、平和を謳われている国で、鉄や鋼の武器防具を無作法に扱ってはいけない。



 レダ王のときは、それなりの武力を持った国だった。

 が、コールは武力を極限まで抑えた。


 平和な国に、戦力などいらない。


実用性を重視された部屋で、クローブは似合わない警備服を脱ぐと、変わりに黒いマントを羽織った。



 誰がどう見ても分かる機嫌のよさに、ジャンも気安くなる。

 コール王が就任してからクローブは堅くなり、話しにくくなっていた。

 それが今は以前のような気安さを取り戻している。



 こんな風に話すのは何年ぶりか……

ジャン

本当かよっ!
チクショーお前はモテるからいいよな!!
こんど俺にも誰か紹介してくれよ!!

 心からそう言うジャンに、クローブは苦笑した。

 確かジャンは20人連続失恋……

 この間さらに1人振られて21人連続失恋記録を更新したとか言っていた。

クローブ

カノン様だよカノン様

ジャン

カノンって……あの紫のキレイな人?

クローブ

そうそう

ジャン

すげー……。どうやったら知り合えるんだよ。ってかあの人とデート!!?



 驚くジャンをよそに、クローブは身なりを整える。

 クローブは、カノンに対して紳士であろうとしていた。

 どんな格好をしていてもカノンは気にも留めないだろうが、外見だけでも出来るだけ釣り合う自分になりたかった。

クローブ

別に普通だって
今度話しかけてみろよ
結構答えてくれるから

ジャン

無理だって

クローブ

だからお前はダメなんだよ

 クローブは肩を竦めておどけて言った。

 クローブをいまいち掴めないジャンも、何となくむきになる。

 久しぶりのくだけた空気に口が滑りやすくなっていた。

ジャン

何がダメだよっ!!
お前がすごすぎるんだ…っ!!

クローブ

褒めてくれてありがとー
お礼に今度抱いてあげるよ

ジャン

いらねーっ!!

クローブ

じゃ、俺は行ってくるから
お前は警備がんばれよー!!

 クローブは、ジャンの肩をポンと叩くと、手をひらひらと振って町へ向かった。

 
 まだ何か言おうとしたジャンだったが、その背中が本当に嬉しそうだったから、

ジャン

しゃーねー、俺もがんばるか!!

 自分まで嬉しくなっていた。
























   

クローブ

お待たせしました、カノン様

 クローブの指定した店に、カノンは先に来ていた。

 一際目立つ風貌のお陰ですぐに見つけることは出来た。



 が、カノンに近づいていくと、居合わせる客からはクローブに好奇の目が向かう。



 気付きながらも受け流し、カノンだけを見るようにした。

カノン

大して待っていない

 いつもの調子でカノンは答える。

 視線で座れと促した。

 若干薄暗いかと思える照明だったが、それが返ってカノンの神秘さを引き立てた。


 今更だが、これだけ注目されて堂々と振舞うカノンは大物だと思う。

 知ってか知らずか、どちらにしろカノンは自分に対してさほど興味がなかった。

 素直に従って椅子に座ると、クローブはボーイを呼んだ。


 そして、いつも頼んでいた赤ワインを注文する。


 いつもどおりの爽やかな笑顔が、少しだけやさしく見えるのは、クローブがそう意識しているからだ。

クローブ

カノン様が本当に来てくれるとは思っていませんでした

カノン

……お前、私をなんだと思っている?

クローブ

本当にコール王のことが大切なんですね

カノン

…………

 カノンは、こういうときのクローブの目が好きではなかった。

 何もかも見透かしたような、そのくせどこか寂しそうな。

 だから、瞬きをしながら少しだけ目を伏せた。



 大体、どうして自分と2人で会おうとしたのだろう。

 作為がありそうだと最初から感じてはいたが、未来を変えるために、流れてみるのも一つの手だった。


 カノンにクローブは読めない。

クローブ

いい機会ですし、よければ少し話してくれませんか
カノン様の身に起こったこと
これからのこと

 カノンのことが知りたかった。

 孤独感が強く、浮世離れしたカノンの笑顔を一度見てみたかった。



始まりはそれだった。

 今は、もう少し違う想いを感じている。

カノン

……全部は話せん

クローブ

もちろん、話せることだけで結構です

 ボーイがグラスを持ってきて、赤ワインを注ぐ。

 ヴィンテージ物ではない安物のワインだが、その気安さにカノンは肩の力を抜いた。


 思えば、誰かと外食なんて生まれて初めてではないだろうか。


 穏やかに流れている異国風の音楽が、喉元に心地いい。


 ボーイが場を離れるのを見計らって、クローブはグラスを持って、傾けた。

クローブ

カノン様のことを、もっと知りたいんです











 

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