大広間の側まで来た。

…………!

襖の向こうでは、綾瀬の母親が喋っている。





やがて、料理長と俺の名前が呼ばれた。
それまでずっと手に人を書いていた俺は料理長にどやされた。

料理長が襖を開け、俺が後について入る。


大砲のような大音量の拍手が俺達を包み込んだ。
老若男女の市民が笑顔で出迎えてくれていたのだ。

入口には露樹さんが立ち、見守っている。

綾瀬 竜二

皆様、本日はお越しいただき誠にありがとうございます。料理長の綾瀬竜二です

やがて、司会によって、料理長のスピーチが始まった。


その横で、俺は必死に彼女を探した。

江岸 梨奈

…………ふぅ

江岸はロビーで眠っていた。
昼間から食事も摂らず、今日のことを岸ノ巻中に知らせてまわっていた。



おかげで熱中症と疲労でボロボロになり、燕ノ巣まで帰り着くやダウンしてしまったのだ。

江岸 梨奈

く…

江岸 梨奈

く…どう…く…ん…


隣にいた綾瀬が呆れるようにため息をつく。

綾瀬 たつき

あんたさぁ、いくらなんでもバカ過ぎるよ。いくらあいつが新参者だからって、ぶっ倒れるまで頑張る必要ないじゃん

江岸 梨奈

…だ…て……


息もだえだえの中で江岸が言った。

江岸 梨奈

あたし…の…友達…だもん……

綾瀬 たつき

…それがバカだって言ってるの。そんな理由で倒れても、あんたにどんなメリットがあるわけ?

江岸 梨奈

メリットなら…あるよ


江岸が微笑んだ。

江岸 梨奈

くどうくんが…いろんなひとと…つながって…いくのをみてると…あたしも…なんかうれしいんだ……


急に綾瀬の顔が赤くなる。
それに気づかず、江岸が続けた。

江岸 梨奈

それは…あやせさんも…いっしょじゃないの?

綾瀬 たつき

なっ…!なんで私が……!!

江岸 梨奈

だって…うごいてくれたじゃない

綾瀬 たつき

…………!!

耳まで赤くなる綾瀬。
そんな彼女を見て、江岸は優しく笑った。


料亭内に低い声が拡散された。
綾瀬の父親の声だ。

綾瀬 たつき

そろそろだね


綾瀬が呟いた。
江岸が頭を上げる。

江岸 梨奈

……なにが?

綾瀬 たつき

工藤くんのスピーチ


江岸の目が見開かれる。
綾瀬はそんな彼女を見て、肩をすくめる。

綾瀬 たつき

さっき厨房に行った時にお父さんが言ってたのを聞いたから確実だよ

あの工藤くんが。
市民の前でスピーチ。
なぜか、凄く嬉しかった。


どうしてだろう。

自分のことのように涙がこぼれてくる。

しかし、それが本当なら……、

江岸 梨奈

行かないと…!


綾瀬が止めるが、耳を貸す暇はない。
既に料理長の話は半分が終わろうとしている。

疲れた躰が悲鳴をあげるのを抑え、江岸は大広間へ歩き始めた

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