全ての調理が終わった。
全ての調理が終わった。
追加でこしらえたメニューも盛り付け終わり、俺と料理長は業務用の通路から大広間へ向かっていた。
向かっている今も足が震えている。
なにせ、今回は岸ノ巻の市民全員の前に出るのだ。
クラス全員の前が限界だったのに、その何千倍の数の人の前で話すのだ。
躰がすくまないわけがない。
緊張のあまり、吐き気まで沸き起こってくる。
もうダメだ、このまま止まってしまおう……。
突然頬に衝撃が走った。
料理長が俺の頬に張り飛ばしたのだ。
シャキッとしろ!まがりなりにも男だろうが!
まがりなりにも何も立派な日本男子ですが……
ここで立ち止まったら意味がねぇだろ
視界が揺らぐ。
料理長が真剣に俺と向き合っている。
今まで逃げてきたんだろ?辛い過去や人見知りを言い訳にしてな
思わず頭に血が登った。
別に言い訳にしてなんか…!
でもな
料理長が俺の肩に手を置いた。
そろそろ逃げるのも疲れたろ?物事には全て終わりがあるんだ。夢とか、体力とか命とかな。
逃げるのも同じことだ。いずれ限界が来る。人と向き合うのに逃げてても何も進まねぇ。だったら前に進むにはどうすればいい?人と向き合うんだ。それしか前に進む手段はねぇ
今の料理長はまるで父親のようだった。
こんなに親身になって助けようとしてくれる…。
っていっても、実際はそれが難しいんだよな。最初からこれじゃ思わず気後れするのも分かる。だが、心配するな。俺が隣にいてやる
ハッと前を向くと、料理長が思いがけないことを聞いてきた。
工藤、友達いるか?
友達……
浮かんだのは一人の少女。
感情の起伏が激しく、人との関わり方が少し下手で…でも優しい少女。
あたし……工藤くんの最初の友達になる!!
そう、言ってくれた彼女を。
……はい
料理長は嬉しそうに笑った。
じゃあ、そいつのことを考えて話しな。今日は来てるはずだからいたらそいつをチラッと見るんだ。大分違うはずだ
いるに決まっている。
あいつは友達思いだから。
無理矢理でも傍にいようとするだろう。
だからこそ…
俺も頑張らないとな……
不思議と緊張が収まっていた。
俺と料理長は再び大広間へ進んでいった。