真悠

恐怖を与える側……?

 心拍数がペースをあげたのがわかる。

 いよいよ核心めいた何かが近づいてきている感覚。何か分かるかもしれない。いや、龍太郎やアゲハを助けれる手掛かりがきっとどこかにあるはずだ。


















恐怖を創造し

放つ側になればよい。



発狂した私はそこに辿り着いた。













心身共に深刻な傷を与え、



執拗と言えるほど持続的に、



経験則にない恐怖を与え続ける。






そしてそれは拡散力を持ち、



拡がるにつれ強大な力を手に入れ、



世界中を覆い尽くす。











そんな理想を掲げ、

私は呪いに関する書物を漁り実験を続けた。





呪いの源になる力は

生贄や魔法陣、

悪神との契約・呪文の詠唱など

種々様々ある。





だが気付いた。

正気を失う前に大切にしていたもの。



言葉――その確たる力を。



奇しくも言語学者だった私は、

言葉に、文字に、精通していた。



文字に秘められた意味を。

それが如何に強大であるかを。

呪いの源になる力として

如何に最適な代物であるかを。







それだけで意味を持つ文字の力。

受け手側による解釈が

優先されそうだが、

創造主の込めた意味は、

どれほど時代を越えても内在している。



その文字に意味を込めて

呪いを形成する。








そして私は次々に呪いを創りだした。

真悠

呪いだ。
やっぱり
呪いじみた力だったんだ。

 しかも文字を使った呪い。おそらくその文字とはあの箱に書かれた文字のはず。

世に恐れられた事件の中で、

私の呪いが原因となるものは

数々とあった。







だが、拡散力と持続力、

それを持ち得ない呪いばかりだった。



























何が足りないのか……



























度重なる呪いの創造により気付いた。





呪いの源になる力を



永久に失われないもので補完する。



未来永劫人が宿し続けるもの。















欲。



食欲・睡眠欲・性欲・金銭的欲求、

自己顕示欲や承認欲求など、

数え上げたらきりがない。



そして尽きることがない。



この欲を次々と吸収し

呪いを増大させていく。

持続力と拡散力を秘めた呪い。







絶対に破られず

手放したくても手放せず

欲を奪い溜め込み

次の標的を引き付ける。



創造する文字に



そんな意味を



深く



深く、深く



深く、深く、深く



深く、深く、深く、深く



深く、深く、深く、深く、深く



深く、深く、深く、深く、深く、深く



深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、、深く、深く、深く、深く、深く、、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、、深く、深く、深く、深く、深く、深く、、深く、深く、深く、、深く、深く、、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、深く、、深く、深く、、深く、深く、深く、、、















き'

ざ'

み'

つ'

け'

る'






































ゆっくりとだが人の欲を喰らい



力を蓄え



やがて世界を覆う恐怖に成長する。







私はその時、

恐怖そのものになったと言えるだろう。














そして最初に…………










は、私の欲だ!

真悠

言葉のちから…………
創造された文字…………

 蛹室物語の全文を読み終えた私には、納得しかなかった。

 突拍子もない創作された物語、それが当たり前の判断だと思う。だけど違う。これは事実。私には分かる。



 あの箱の文字はおそらく、いや確実と言っていい、蛹室物語に出てきた創造された文字で間違いない。その証拠は、欲を吸収するとあった記述。


 るりの状態を思い出したら、食欲も失っっていたし、おそらく眠ったりもしていなかったかも。欲を失っていく人間がどんな気持ちになるか分からないけど、恐怖感を抱くのは間違いなさそう。恐怖感から人を避けるというのは充分ありえるはず。






真悠

この主人公が
最初に呪いの対象に
なったってことだよね?







 私は疑問を投げかけるように、蛹室物語の結末を口にした。





 長い年月をかけて、人の手を渡り、欲を吸い尽くし、心を恐怖で蝕み、呪いの力を増して、私の手元にある。

 まだまだ力を蓄えるように、欲の力を吸い込むんだろうか。まさに栄養を吸収して蛹になり、完全変態する蝶のよう。いずれ世界中に影響を及ぼす恐怖の対象になるんだろうか。













 部屋の角に転がっているあの箱に視線を移す。


 昨日、るりのことを思い出して、悔しくて、悲しくて、どうしようもない思いになっちゃった時、あの箱を壁に投げつけた。お気に入りの電気スタンドが壊れて壁には酷い傷痕が残ったけど、箱は無傷だった。

 これも呪いの力……。びっしりと表面を覆い尽くす未知の文字には、絶対に壊れない力も備わっているんだろうか。







 今、分かっているのは、箱の文字に呪いの力が宿っていること。

 でも引き金となる発生原因や、呪いの解除方法は分からない。それが分からないと龍太郎やアゲハを助けられない……の、に






真悠

ぁ……

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