――2月18日、水曜日。

 昨日は夜更かししちゃったから、少し眠い。あの『世界の魔術大全』って本面白いな。何か魔術を題材にした物語作ってみたくなる。


 朝の支度を終え、カバンを持つ。忘れ物がないか振り向いた時、机の上のあの箱が、朝日を受けてかギラリと光った。

真悠

あれ?
今日もるり来てない。

アゲハ

メールしたら
まだ体調が悪いって
返信あったよ。

真悠

2日続くと
ちょっと心配ね。

龍太郎

今日帰り寄ってみようか?

アゲハ

私もそうしたいけど、
今日は用事があるから
やめとくね。
るりによろしく言っといて。

真悠

うん、分かった。
じゃ、龍太郎と
二人で行ってくる。

友也

…………。

 るりが来てない以外は、いつもの風景。正木先生がギリギリホームルームに入ってくるのも、いつもの風景だった。

 ――放課後。

真悠

あ、るりから返信がきてる。

龍太郎

何て書いてるの?

るり

今日、病院に行ったら
流行ってる伝染病に
罹ってるみたい。
安静にしてたら大丈夫みたいだけど。
うつったりするらしいから
絶対に来ちゃ駄目よ。
心配してくれてありがとう。

龍太郎

で、伝染病!?

アゲハ

インフルエンザとかかな?

真悠

そんなの最近聞いてない。
ホントに大丈夫かな?

アゲハ

心配なのは分かるけど
るりの言う通りにしようよ。
お見舞いに行って、もし真悠に
うつっちゃったら、それこそ
るりが悲しむよ。

龍太郎

大丈夫。そう信じようよ。

アゲハ

心配する気持ちは
私達も一緒だよ。
ね、真悠。

真悠

うん、そうだねアゲハ。

 アゲハの言ってる事は正しい。

 私も信じてるりを待とう。

 私は家に帰るなり『世界の魔術大全』を開く。るりの事を信じて待つって決めてからも、気にならないわけはなかった。その気持ちを抑え込むように、創作への意欲を高めようと本に集中する。

真悠

面白い、すっごく。
今、書いてる小説に
なんとか自然に
盛り込めないかな。

真悠

それとも、
同時進行でもう一作
書いていこうかな。
でも、両方中途半端に
なりそうだし……。

 誰に言うわけでもなく独り言を漏らしてしまう。創作意欲が高まるのはいいんだけど、つい、思いついたものを書きたくなってしまう。

真悠

!?

 机の棚にある箱が目に止まった。そう言えばこの箱は、誰からのプレゼントなんだろ。これ以外の五つは、おおよそ検討がつくんだけど……。誰かが二つ入れてるのは、確かだと思うんだけど。友也君は何考えてるか分からないし……、でもやっぱり正木先生が怪しい。

 そうじゃなかったら、もしかして全員犯人説? 実は全員で私にドッキリを仕掛けているとかかな?

真悠

あーもう分かんないよ。

 最初は気味悪かったけど、よく見るととても綺麗なデザイン。

真悠

友也君が言うように、
本当に眺める為の
ものかもしれないな。

 私はまた独り言を呟き、机の棚にある箱を手に取ってみる。見れば見るほど美しいデザイン。美術的な知識は詳しくないけど、引き込まれるような魅力を感じる。

真悠

開けられないって
決めちゃってたけど、
鍵穴はあるんだよね。

 その穴をまじまじと見てみるけど、開けれる気なんて湧いてこない。だって鍵ないし。

 私はその鍵穴の闇に意識が吸い込まれそうになる感覚を覚えた。

真悠

はー、いけない。
寝落ちするとこだった。

 背筋を伸ばし両肩を回す。親指の付け根にある眠気に効くツボをグリグリして、私は小説を書くことにした。

次の日へ続く 

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