メロー・ウェーブ

ナルサワ

はい、どぅもどぅも。
浅草のワルサー、ことナルサワです~

マスター

こんにちは!私は長年この浅草で純喫茶モロウという喫茶店のマスタ…

ナルサワ

なんでだろッ!!

マスター

アウチ!!

ナルサワ

ウケる!!

マスター

出だしからなんだねナルサワ君。
いまボケじゃなくて普通に自己紹介の途中でツッコむタイミングじゃなかっただろう?

ナルサワ

今のはツッコミじゃありません。
“ブッコミ”です

マスター

な、なんだね“ブッコミ”とは?

ナルサワ

相方のボケの間とか関係なく、突飛なタイミングで刺激を与えることにより
「あれ?なんでいま俺殴られたんだろう?」
という疑問が生まれます。

ナルサワ

その相方の無様だけどリアルな動揺がお客さんのシュールな笑いを産むという、
いわば予定調和をぶっ壊すプログレッシブなテクニックなのです。

マスター

ほほう。
それはマンネリ化したお笑い界に一石を投じる画期的な漫才スタイルに…

マスター

ってなるかーい!!
君が一方的に殴りたいときに殴ってこの私をせせら笑うだけだろう?
この理不尽を怒らないでか!

ナルサワ

まあまあ、落ち着いて。
あんまり怒るとより皺がただれるよ?

マスター

君が仕掛けてきたんだろうが!
目上の人間を労わりなさい!
これだからゆとり世代はもう本当に身勝手なのだよ

ナルサワ

はっ!!
年寄りと自称しないところに一握のプライドを見た!

マスター

論点を反らすな!

ナルサワ

そうそう、今日の論点はこんな痴話ゲンカではないのです。

ナルサワ

なんと僕ら『純喫茶モロウ“ウィズ・グッドフェローズ”』がストリエの注目ストーリー特集 週刊フキダシ-7月18日号-に選ばれたのです!!

ささ、ずずっと一杯

マスター

心より感謝申し上げます!
継続は力なり、細々と店を続けてきて良かったなと心から思っております。
マイペースな営業スタイルとなっておりますが今後ともごひいきにどうぞ。

ナルサワ

うーん、でも参ったなあ。

マスター

何がだね?

ナルサワ

いくら豚汁とかタダ飯出来るからと言っても、あんまり沢山人並ぶ所とか苦手なんですよ。
僕、コミ障の気があるし。

マスター

それは炊き出し!
たしかにストリエも無料サービスだけどそこを一緒くたにするのはナンセンス!

ナルサワ

そんな水炊きなんかより俺は女が食いてえ!
酒飲みてえ!
もっとパチンコ勝ちてえ!
俺にすべてをよこせ!

マスター

それは欲望のむき出し!
そもそもナルサワ君、そんなべらんめえキャラだったっけ?

ナルサワ

そういや先日のお客さんがあんまりに可愛かったんで、
気を引こうと思って彼女がトイレに行ってる間に飲みかけのコーヒーにさり気におかわり入れておきました。
それもタプタプに。

マスター

それは継ぎ足し!!
あんまり露骨にやると逆効果だからTPO踏まえてそういうことはほどほどがいいよ!?
君、ゼロか100かみたいな所あるからね!

ナルサワ

さらにその時のコーヒーのお勘定なんですけど三百円を千百円と言い間違えて多めにお勘定もらっちゃいました。
てへぺろろろろーん!

マスター

それはただの詐欺だし!
さすがにお客さん気づかなかったのそれ!?

ナルサワ

僕もそろそろアメブロでも始めようかな。
どっかのクリエイターみたいに人の悪口を匿名で書きまくってランキング入りできるなら俺にだってチャンスはあると見た!

マスター

それは藤田氏!
運営会社サイバーエージェントの社長さんだよ!
そしてさすがに今のはだいぶ辛かったような…

ナルサワ

なんでだろっ!!!

マスター

アウチ!
それ“ブッコミ”っていうか、ただのゴマカシじゃないのかね!?

ナルサワ

えーん、今のは我ながら使いどころに失敗したよお!こんなんじゃM‐1また予選落ちだよ。

マスター

ええ?いや、いきなり泣き出しキメられてもなあ…M-1!?

ナルサワ

なんでだろッ!!

マスター

アウチ!
どちらかというと今の「なんでだろう」は私のフレーズなのでは?

ナルサワ

まあ、そういうセオリーをはみ出して生きるのが僕のポリシーなんで。
ちゃす。

マスター

もー、そうやって最後は全部持っていくんだから~。
だから私が主役のはずなのに、殆どの読者にナルサワ君が主役とよく間違われるんだよなあ、本作。不思議。

ナルサワ

なんでだろっ!!

マスター

アウチ!!
いまのは…割と文脈に合ってたからツッコミに困る。

ナルサワ

そんなんなら漫才師なんか辞めちまえ!

マスター

別にはじめから目指してないわ!
いいかげんにしなさい!

ナルサワ

どうもありがとうございました~

マスター

どうもありがとうございました~

マスター

うーん、これだけめいっぱい漫才ごっこに時間使っても閉店まで25分も余ってるよ。
ナルサワ君、何して時間潰そうか?

ナルサワ

うーん。
そいじゃあ、もうちょっと“ブッコミ”に勢い欲しいんで、そこで歯を食いしばって立っててもらえます?
ちょっとハードな稽古になるかもしれません。

マスター

よしたまえ。
それはもはや君が漫才の練習という大義名分を持ってストレス発散したいだけだろう?
この生粋のいじめっ子プリンスめが!

ナルサワ

にしし。
やっぱそこはバレるか

マスター

それにしても何でウチはこんなにお客さん来ないんだろう?

ナルサワ

…なんでだろ

マスター

…ナルサワくん。
今のくだりはいっそブッコんでくれて良かったよ?

またね!

pagetop