――DAY ?――
午前? 午後?
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――DAY ?――
午前? 午後?
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この日記を見つけた方がいたら
――この日記を見つけた方がいたら、
どうか、最後まで読んでください。
そして、お願いです、
内容を信じていただきたいのです。
私にはどうすれば良いか分からなかった話を
少しだけ、聞いてください。
でも、もし……
――もし見ているのがイリヤ・イリイチ・パヴロフなら
――私の兄、イリューシェチカだったら
お願い
私のことは
私のことは死んだと思って、ここから先は見ないで焼き捨てて。そして、サスリカを離れてください
――私は兄と二人で、
小さな田舎町に住んでいました。
私が幼いうちに死んだ母の思い出はなく、
形見は父からプロポーズされた時に
渡されたという髪飾りだけ。
父も、先の戦争で死にました。
身寄りのない子供に世間は優しくありません。
生活はぎりぎりで、貯金も底をつきそうでした。
兄は一日中働いていて、
私は見ていられなかったのです。
足手まといの私がいなければ、
兄は楽をできる。
私は数か月前のある日、身売りを覚悟で
兄のいない間に家を出ました。
ふらふら歩いて辿り着いたのは見知らぬ街角。
――そこで、私は一人の男性を助けました。
その方は苦しそうに身体を曲げて
誰もいない路地に倒れていました。
大丈夫ですか?!
私はあわてて駆け寄り、
その方に水を差し出しました。
しばらく背中をさすり、
話しかけながら水を飲ませると
すっかり落ち着いたようでした。
……ありがとう。
貴女は命の恩人だ
恩人だなんて……当然のことをしただけです
いいや、ぜひお礼をさせてください
えっ
それから、押し切られるように私は
高級そうな店へと連れて行かれました。
飲んだのはジュースだけでしたが、
上品なグラスに入って果物の添えられたそれは、
見ているだけで酔いそうな代物でした。
そうだ、面白いものをひとつお見せしよう
テーブルの近くにあったナプキンを
その方は手に取りました。
そして、私の目の前で
何事か小さく唱えると、
――――
えっ……
……ナプキンを紙幣に変えたのです。
――信じられないだろうと思います。
私も初めは、よくできた
手品なのだと思いました。
この方は奇術師なのだろうかと思いながら、
拍手をして終わるだけのはずでした――
凄いですね!
全然仕掛けが分かりま――
言ったでしょう?
貴女に、お礼をしたいのです
――あの方は、私にその紙幣を掴ませました。
それは私のような貧乏人には
めったに手にすることすらない単位のお札で、
私は、何がなんだか分からないままに
それを掴んでしまったのです。
――――
そのまま、あの方が何事か
私の耳元で囁きました。
[POSE MUNDANE]
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「平凡な見せかけ」
私には、何故か――なぜか、
囁かれたものが呪文だと分かったのです。
そして、この呪文がこの奇跡を起こしたのだと
気づきました。
私は、自分でもよく分からないままに
手元のナプキンを手に取りました。
――――
一度聞いただけなのに、その呪文を
まるごと諳(そら)んじることができました。
私は――
――[POSE MUNDANE]――
ナプキンは、お金に見た目を変えました。
そのとたん、鋭い眩暈が私を襲い――
素晴らしい
――気がつくと、私は路地に
独りで立っていました。
それからどうやって帰ったか、覚えていません。
夢、だったの……?
――それが、私が魔術を
手に入れた日の全てです。