――DAY 4――



飯屋『ミラ』

ヤロスラフ(スラーヴァ)

アルセニーは臆病者。ずっとそう思ってたよ、俺は。町のしきたりにも協力的じゃなかったしな

ヤロスラフはしぶしぶと言った様子で口を開いた。

正直、あんなことをするとは思ってなかった。お前たちもそうだろ?

アイラト(ラートカ)

……

酒場サッヴァ(サーヴァ)

まあ……確かに、慎重な奴だったな

飯屋ザミーラ(ミラ)

あんたたち……アルセーニャのこと、嫌いだったのかい?

嫌い? 好きも嫌いもありゃしないだろう

アイラトはザミーラの言葉を吐き捨てるように

 その言葉だけで流した。

で? 「臆病者」がなんであんなことをしたんだ?

ヤロスラフ(スラーヴァ)

変だと思わなかったか?

あれこれ口実つけて『かみさま』や儀式、神事に関わってこなかったアルセニーが、なんでアダムスキーの野郎の凶行を止められたんだ?

お前はそれを知ってるってのか?

……3年前に起きたことを考えてもみろよ

酒場サッヴァ(サーヴァ)

どの部分だよ?

いらっしゃい

一週間ほど泊まる

同じく。しばらく厄介になるぜ

……って感じでな……

あんまり他の町じゃ聞かないだろうけど、この町ではね……

へえ、そんな風習があるのか

次の祭の準備をしないとな……

でも、ここ数年はずっと大きな吹雪は起きてませんし……

でも、数十年ごとに必ず生贄を捧げなきゃ祟りが起こるのよね?

少なくとも、数年のうちには儀式をしないと……

でも、最近は適当な若者が少ないぞ……

動物を代わりに捧げるのは……?

いや、『かみさま』に失礼のあることだけは駄目だ……

……いっそ……

……

おい、お前、何を考えてる?!

……お前は甘すぎるんだよ

おい、やめろ!!!

大変だ! 誰か来てくれ!
今必死に止めてるんだが、あんたらの『かみさま』の祭壇が……

クソッ!

待て、何をする気だ?!

分からないか?

生贄を捧げるなんてくだらない風習が続いているのは不思議だったが、この様子じゃ仕方ないか

止めるんだよ、この風習を。
――『かみさま』を、殺す

やめろ
なぜそんなことをする必要がある?

それ以上手を出すつもりなら、どんな手を使ってでも……

残念だったな

もう、術はかけ終えた。
『かみさま』とやらも……もうすぐ死ぬ

……クソッ

だから、お前は甘すぎるんだよ。

あとはこれを発動させるだけで……

……邪魔するのは誰だ?

まさか……

……アルセニー?

なんでアルセニーが死んでんだよ!!
しかもこの、床に書かれた魔法陣……

まさか、アダムスキー……これも貴様のせいなのか?

……

こんなことして……ただで済むと思うなよ

俺はこの町側につくぜ。
お前との縁はこれきりだ

もしお前が再びここに来たら、この町に手を出そうってんなら……そのときは、ただじゃおかないぜ

……今のところは、退こう

ヤロスラフ(スラーヴァ)

あのとき、あの野郎……アダムスキーは、二つのことをしようとしていた

酒場サッヴァ(サーヴァ)

そうなのか? 俺には詳しいことは分からなかったぞ

一つは分かるだろ。『かみさま』を、その……追い出そうとした

こっちは成功しちまった

ああ

ヤロスラフ(スラーヴァ)

そして、もう一つ……この町に『かみさま』が戻ってこれねぇように、結界を張ろうとしていたんだよ、あいつは

なんだと?

……なんでそんなこと、お前が知ってるんだ?

……アルセニーが言ってたのさ

お前たち、アルセニーは『かみさま』を追い出されるのを止めようとして死んじまったと思ってるだろ?

そこで、変だと思わなかったか。なんであいつは森の中の祭壇じゃなくて、空き家の中で死んじまったのか

アイラト(ラートカ)

……それは……あそこでアダムスキーの野郎と鉢合わせたんじゃねえのか

違うね

アダムスキーは、空き家……『ミーシャ』を隠れ家に、あそこで結界を張る儀式の準備を進めてたのさ

……それを、アルセニーが止めたのか

死んじまうほんの少し前に、俺に教えてくれたのさ

アイラト(ラートカ)

お前だけに?

……

そんなことを、奴が……

クソッ!
俺らじゃ止められねぇのを分かって……

…………ああ、そうだな

……アルセニー。
こんなこと、なんで俺に言うんだ?

お前、俺のことを臆病者って言ってたよな

い、今は関係ねぇだろ

誤魔化さなくていい。酒場で大声で言ってたのを聞いたからな

マジか……

その通り、俺は臆病者さ

今言ったことは全部、お前の腹だけに留めといてくれや。そして、俺のことはそのまま、『臆病者』って思っててくれよ

なんだ、そりゃ。どういう意味だよ

…………

ヤロスラフ(スラーヴァ)

その意味が分かったのは、あいつの死体を空き家で見つけたときだった

酒場サッヴァ(サーヴァ)

……なんで、アルセニーは止められたんだろうな

ヤロスラフ(スラーヴァ)

俺達には隠してたのさ

本当は、『かみさま』のことも儀式やなんかのことも、あいつが一番詳しかったんだ

アイラト(ラートカ)

……にわかには信じがたいな

ヤロスラフ(スラーヴァ)

俺だってそうさ。だが、アルセニーはアダムスキーとも話をしていたらしい。きっと、そこでアダムスキーのやろうとしていたことを聞き出したのさ

飯屋ザミーラ(ミラ)

……

……

……

ヤロスラフ(スラーヴァ)

だから言いたくなかったんだよ

あいつは、死ぬ覚悟で止めたのに、誰にも知られたくなかった

きっと、お前たちに英雄みたいに思われたくなかったんだろ

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