逃げなければ!飛ばなければ……!

どのくらい飛び続けていたのか、私には分からない。

恐怖で気が動転していて、翼を動かす事しか考えられなかった。

ようやく冷静さを取り戻し、今、自分が飛んでいるのが公園の上だと気づいた時には、気力も体力も使い果たし、フッと意識が遠のいた。

身体が動かない。
それなのに風を切って進んでいる?
落ちている、落ちて行く……。

地面へと吸い寄せられて行くのだと認識してもなお、私はそれに従うしかなかった。

何の抵抗も出来ぬまま、私は地面に激突した。

衝撃と、頭頂部の鈍い痛みの後……。
瞼を上げると、そこには先ほどまで私が居た空が広がっていた。

――背中は地面に接している。

助かった!

喜びでいっぱいになり、早く今日子の居る家へ帰らねばと、気が逸る。

そして不意に視線を地上に移した時だった。

そこには……。
横たわる私の姿があった。

なぜ?

助かったのではないのか!?
私の目の前に居る“私”はピクリとも動かない。
私は確かにここに居るのに、なぜ目の前に“私”がいる?

“私”を見ている、私は何だ!?

恐れよりも、まるで初めて今日子に鏡を見せてもらった時のような困惑が、私の中に広がって行く。

これは夢か、現実か、
生きているのか、それとも……。

触れようとしたその時。

視界に入ったのは
人間の腕だった。

ピー助

な、何だこれは……

ピー助

!!

声が! 言葉が!!
思い通りに話すことができる!?

……。
何か鏡のような、人間の道具のせいでそう見えているだけなのかと思ったが、違ったようだ。

地面に横たわるオカメインコの“私”を見ていた私は、私の意志で動き、言葉を話すことが出来る別の生き物――――。

ピー助

人間……。

ピー助

私が人間になっている!?

ピ、ピピィ

この信じがたい現実を受け入れる間もなく、微動だにしていなかったオカメインコの“私”が目を覚ます。

良かった、“私”は死んでないようだな。



私は生きてここに居るのだから、死んでいなかったのは――。

ピギャー!?

王村幸助

オ、オレ、
フタリ!!!

……やはり、人間のようだな。

兎に角、この人間に事情を説明してやらねば。

直ぐには信じてもらえないだろうが、それは私も同じことだ。

まずは落ち着いてもらわないと……。

王村幸助

ピピッ!
スゲー!
トリ!
トリー!!

ピー助

は!?

王村幸助

オレ、トリ!
オマエ、オレ! スゲー!

ピー助

そ、そうだ。とにかく羽ばたくのを止めて落ち着いて私の話を聞いてくれないか

王村幸助

スゲースゲー!
テレビ!
ミタ! 
イレ、ワカリ
スゲー!

ピー助

お、おい!

王村幸助

スゲーユメ、
スゲー!!!

私の話に全く耳を傾けず、スゲースゲーと呪文のように連呼し始める。
そして羽をバタつかせながら、見たこともないくらい不格好な姿勢で走り出す人間のオカメインコ。

私は慌ててその体を捕えようと後を追い掛ける。

――が、うまく走る事が出来ない。

鳥として飛ぶことは出来ても、人間として走ったことなどある訳がないのだから当然だ。

ピー助

待て人間!
どこへ行くのだ!
私の話を聞け!

ピー助

がふっ

王村幸助

ピピピピィ~イ!!

足がもつれて転んだのとほぼ同時だった。

目の前の不格好なオカメインコが、ふらふら空へと飛び立って行ったのは。

ピー助

くっ、あの人間は馬鹿なのか?

上手く話せないのは私も承知しているが、私の話を聞かなかったのは、あの人間の性格の問題だ。

ピー助

……本当に夢だと思っているとしたら大変だな

青く澄んだ空を見上げながら、“スゲーユメ”、『凄い夢』と言っていた姿を思い出して、私は呆然と立ち尽くす。

探すにしてもあてなどない。
この公園に戻ってくるかどうかも分からない。

一人取り残された私はこれからどうすれば……。

ピー助

そうだ、今日子ならこんな私でも、ピー助だと気付いて……信じてくれるかもしれない

私は一歩ずつ、地面を確かめるように足を前へと動かし、ゆっくり公園を後にした。

つづく

第3羽~な、何だこれは…

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