振り返った先に居たのは、俺自身。
俺は頭の痛みも忘れて、反射的にこの状況を説明できる理由を見つけ出そうとしていた。
ピギャー!?
オ、オレ、
フタリ!!!
振り返った先に居たのは、俺自身。
俺は頭の痛みも忘れて、反射的にこの状況を説明できる理由を見つけ出そうとしていた。
他人のそら似か?
……にしては似すぎだ!!
生き別れた双子の片割れ?
……いや俺はれっきとした一人っ子だ!
ドッペルゲンガー?
……見たら死ぬっていうけど、見る前に死にかけたばっかじゃねぇか!
幽体離脱!?
……あ、これが一番それっぽい!!!
?
何この綺麗な羽……。
これは……
俺の……
うぉ俺の腕ぇえ~っ!!!
怖い怖い怖い怖いこわ……
……いや、待てよ?
ピピッ!
スゲー!
トリ!
トリー!!
そうか分かった答えは夢だ!
オレ、トリ!
オマエ、オレ! スゲー!
ドラマやアニメなんかである、人格が入れ替わるやつだ!
スゲースゲー!
テレビ!
ミタ!
イレ、ワカリ
スゲー!
多分昨日の夜、華絵と一緒に見た動物番組のせいで、鳥と入れ替わる夢を見ちまってるんだ!
すげぇ喋りにくいけど、それがなんか鳥っぽい。
俺はインコか?
スゲーユメ、
スゲー!!!
とにかくすげぇリアルだ。
楽しすぎだろ!!
よし!これは夢だ!
そうと分かればやる事は一つしかないな!!
いざ、大空へ!!
ピピピピィ~イ!!
ひとしきり考えがまとまったところで、俺は空へ飛び立った。
背後で俺らしき人間がごちゃごちゃ言ってたけど、そんな事より今は、鳥の俺を楽しまなきゃ。
俺は目いっぱい強く羽ばたいた。
……飛ぶのに慣れていないからか、二階建ての家の屋根には届かなかったけど、それでも鳥初心者の俺には充分の高さだ。
信号や踏切で待たされることもない。
狭い路地をすり抜けて近道だってできるし、
橋が無くても川を渡れる。
営業中の遊園地に無料で入って、並ばずに観覧車に乗る事だって出来る。
いい感じに風が吹けば、羽ばたかなくても飛んでいられるし、その瞬間の風との一体感がたまらなく気持ちいい!
オレ、カゼニナッテル!!
間の抜けた話し方なんて気にならない程、俺は夢中で町中を飛び回り、見たことの無い視点からの景色を、思いっきり楽しんだ。
気が付くと、いつの間にか日が暮れかかっていた。
大はしゃぎで空中遊泳を楽しんでいた俺も、さすがに飛び続けることに飽きてきた。
いつまでたっても覚めない夢に、少し不安を抱き始めた頃、辺りをよく見ると、自宅の近くまで来ていることに気が付いた。
ハナエ……
アパートまで飛んでいくと、出入り口に人影が2つ。
一人は俺の妻、華絵と、もう一人は……。
へぇ……ご主人と二人で旅行ですか。素敵ですねぇ。楽しんできてくださいね!
ヒョロヒョロで顔色の悪いメガネの青年。俺達の隣に住んでる大学生だ。名前は高野なんとか。
ありがとうサブロー君。管理人さんには言ってあるけど、留守中よろしくお願いしますっ
はい。
任せてください!
それじゃ、失礼します
そうそう高野三朗くんだ。
地味だけど礼儀正しい、優等生っぽいヤツだ。
地上に降り、近くの電柱の影から二人の会話を聞いていた俺は、華絵がメガネ君と親しいことに驚いた。
アイツ、メガネ君を下の名前で呼ぶほど仲良かったんだな。旅行に行くことまで言って、俺も後で挨拶くらいしといてやった方がいいな。
アイサツ、ヨロシク
……あれ?
今、旅行の話、してたよな?
メガネ君と別れた華絵はアパートへは戻らず、道端で手に持っていたスマホを触り始めた。
どうやら誰かに電話を掛けているようだが、その表情はさっきと真逆でとても悲しそうだ。
もう……。
幸ちゃんたら、何で帰ってこないのよ
!?
その言葉を聞いた直後、俺の身体をサッと冷たいものが走り抜けていく。
もしもし? はぁ、また留守電……。幸ちゃん、今どこに居るの? 昼過ぎには帰るって言ってたのに、連絡してよ!!
……電話の相手は出ない。
出られるわけがない。
相手は俺だ。俺はここに居る。
俺は夢じゃなくて本当に……
リアル! リアル! ヤバイ!
本当に鳥と
入れ替わっちまったのか!?
ありえない現実を受け止められずにいると、背後から通い猫のクロが歩いてくるのが目に入った。
ネコ、コイコイ
はぁ~クロだ!
いつも仕事で疲れた俺を出迎えてくれてありがとう!
今日は仕事じゃないけど、猫にもすがりたい思いでいっぱいだったんだぁ!
猫好きの俺は、仕事帰りのタイミングに合わせて現れる、この猫に毎日癒されていた。
だから気付かずにいた。
クロが俺を餌として認識し、俺を食べる為に近付いてきていることに。
さっき俺の身体に悪寒が走ったのが、この猫の殺気によるものだという事に……。
シャアッ!!
クロは俺に狙いを定め、襲い掛かってきた。
いつもは俺の足元で転がって甘えてくるのに……、
俺が撫でると嬉しそうに喉を鳴らすのに……!!
今、目の前にいる猫は、全く別の生き物のようにギラギラした獲物を見る目で、野生を剥き出しにして、俺を腹に入れる事しか考えていない。
考えるより先に、
鳥としての本能が俺を動かした。
翼と足を必死で動かして猫をかわし後ろ向きに飛ぶ。
バランスを崩して道路に転がってしまうが、構うことなく翼を、足を、動かし続けた。
この化け物のような猫が、
一撃で諦めるはずが無い。
ビビビィーー!!!
今まで味わったことの無い恐怖で身体が震え、悲鳴のような甲高い自分の声が頭に響く。
逃げなければ食われる!!
逃げなければ死ぬ!!!
パニックで何も考えられなくなったその時だった。
きゃっ!!
ピッ!!
何かにぶつかり、
俺は意識を失った。
つづく