王村幸助

ひゃっほ~い♪

駅の改札を抜けると、今まで我慢していた衝動を抑えきれなくなった俺、王村幸助は、白昼堂々、大声を上げて街中を走り抜けた。

午前中で仕事を早退して、明日から夢の三連休!
しかもただの連休じゃない。土日を含めて五連休で、華絵と、……つ、妻と新婚旅行に行くんだ!!

結婚して丸二年。

就職後すぐに結婚したもんで、お互い貯金も少なく、節約に節約を重ねて金を溜めた。

マンションに住めない程じゃなかったけど、家賃の安いアパートに住んだり、ボーナスが出ても贅沢を我慢したり、コンビニで買い物をしないようにしたり、特売日にだけ買い物したり……。

節電や節水も、とにかく色々と頑張ってきた。

今思い出せば、俺、めっちゃ頑張ったなぁ~。

それもこれも華絵が一緒に居てくれたからこそ。愛の力は何でも可能にするって本当だな……。

王村幸助

そしてついに!
目標額に到達した
先月!
俺たちはとうとう
行動に出たの
だったぁ!!!

走っているせいか声がデカくなる。
すれ違う通行人の皆さんを脅かしちゃってるけど、今日くらい許してくれ!

俺は今、ワクワクが自分の中だけで押さえられないんだ!

王村幸助

ハァハァ……フゥ……フヒィ……

……調子に乗って全力疾走しすぎた。

自宅まではまだ少しあるけど、疲れたし公園で一休みしますか。

昼前の公園は子どもも少なく、とても静かだった。

俺は公園の隅っこにあるベンチにごろんと横になった。

王村幸助

あ~気持ちいい

優しく吹き抜ける風が、ほてった体を冷ましてくれるのが心地よくて、少し眠たくなってきた。

王村幸助

そういえば結婚する前、この公園でよく華絵のダイエットに付き合わされてたっけ。
キャッチボールで二の腕のお肉を排除する、とかなんとか。……懐かしいなぁ

俺はうとうとしながら、なんとなく、公園での華絵との出来事を思い出していた。

王村幸助

あいつ、自分から言い出したくせに酷いノーコンで。ボール拾いしてる内に俺のお肉が排除されたんだよな。

王村幸助

俺が三キロ痩せたって言ったらあいつ、怒って俺の顔面に豪速のストレート投げて命中させるし。
……あの時の球はプロでも通用するんじゃねぇか?スゲー痛かったけど。

王村幸助

……。

俺が眠りに落ちようとした、まさにその時だった。

あの時の……、華絵に喰らわされた豪速ストレートにも似た、硬球のような物体の衝撃が脳天に伝わった。

目を閉じてたから、直撃した物が本当にボールだったかは分からない。
ただ、衝撃のせいで俺の頭はグラグラしていて、まるで遊園地のコーヒーカップを乗り回した後のように気分が悪くなっていた。

王村幸助

……そう言えば、この時間にボール遊びどころか、誰も居なかったはずだけどな。

王村幸助

なら今話題のドローンってヤツか? そうじゃなきゃUFOでも降って来たかな?

王村幸助

どっちにしろ、大怪我だな。
目の前が真っ白だ。

王村幸助

割れそうに頭が痛いし、身体が思うように動かない。

王村幸助

気のせいか体も軽くなったように感じるし、……もしかしたら、こりゃ死んだかな?

いやいやいやいや!!!

こんなところで死ぬ訳にはいかない。
明日から待ちに待った華絵との新婚旅行だ!

怪我ならまだしも死んだら旅行に行けなくなってしまう。

なんとかしなければ、目を覚まして家に帰らなければ。
しかし焦ったところで目は覚めないし、いつの間にか、頭の痛み以外、体の感覚が分からなくなっていた。

王村幸助

起きろ!! 起きるんだ俺!
動けよ体! 目を開けっ!!

王村幸助

こんなところで死ぬわけにいかねぇぞ! 家に帰って旅行の準備しなきゃなんねぇし、せめて華絵に一目だけでも……!!!!!

心で思う以外、何もできない現実に絶望しかけた瞬間――――。

視界が開けた。

ひんやりとした草の感触。
ベンチから転がり落ちたのか、そこは地面で草むらの上だった。

死んでなかった……!!!

これで華絵に会える!旅行に行ける!!

嬉しくて喜ぼうとした時、頭上から鋭い視線を感じた。

何故か全身がぞくっと身震いしたが、ベンチから転げ落ちた俺を、笑いに来た通行人かと思って顔を上げる。

するとそこには――――。

俺を見下ろす俺がいた。

つづく

第2羽~ドローンかUFOか

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