Wild Worldシリーズ

コール歴5年
未來視の未来

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側近

ただいま王は休暇中です
お通しするわけには参りません

カノン

私も休日だ
話をする時間くらいあるだろう

側近

 お生憎様ですが、来客予定者以外の面談は全てお断りしています

 
どういうわけかあなたは私の目を盗んで王と面談していることもあるそうですが、本来それは認められることではありません



 ここの王の側近は頭が固い。

 そしてカノンに対しては異様に冷たい。

 こうなることは分かっていた。

 だから、カノンは大人しく城を後にする。

 もともと王に用事があったわけではなかった。



 カノンは一度、城下町から追放された身。

 用もなしに来るわけには行かなかった。

 だから、城に来たのはカモフラージュ。

 カノンの過去を知っている人は少なくない。



 とはいっても、コールに会いたかったのも事実ではあるが……


 クローブとの約束の時間までまだ少しある。どこで時間を潰そうか。
 

 どこへ行っても何をしていてもカノンは目立った。

 ただ歩いている今でさえ、振り向く人は多い。

 かといって、人目を気にしてばかりいたら何も出来ない。

 カノンはとりあえず、目に付いたカフェの扉を潜った。

 
 店番は、カノンに目をやると、一瞬ハッと息を呑んだ。

 が、すぐに営業スマイルに切り替える。
 
 ホットミルクを頼んでから、カウンターの1番奥の席に座った。

 店内は薄暗く、まばらにいる客もそれぞれに時間を使っていて、カノンに気付く人はいない。

 この落ち着いた雰囲気は居心地がよかった。

コールの奴ぁ自分ばかり贅沢しやがって、汗水流して税納める俺らには何もしちゃくれないのさ!!

声でけぇよ

いいんだよっ!! コールなんぞに頭下げる馬鹿がどこにいるっ!!



 背中から声が聞こえる。

 カノンはホットミルクを飲みながら黙って聞いていた。

レダはよかったよな
自分は質素な暮らしをして、貧しい人に城の蓄えをくばってたりしてたもんな

よく町の様子を観察に来てさ、俺等に『調子はどうだ?』って気にしてくれてたもんな

そーそー
コールは馬鹿で能無しよ
どうしてアレが国王なんだか……

国の為には何もしねぇくせにてめぇのことには熱心でよ

税金返しやがれってんだ!!

誰がコールを王にしたんだ?

知らねぇよ
あの馬鹿王、さっさと退位しねぇかな

知ってるか? コールの奴、また税金使って城を派手にしたらしいじゃねぇか
アイツ、国民を金のなる犬のように思ってるんじゃねぇか?

ありえるのが恐ろしいね

内乱終わった隣国の脅威だってあるっつーに、コールの奴何のん気なことやってんだ

馬鹿王は何も考えちゃいないのさ
贅の限りをつくして、懸命に働く俺等を高みからあざ笑って見てるんだ

けっ。いつの時代の話だよ

とにかくコールはダメだ。他にいい王はいねぇのか? 
何なら俺がなってやろーか

だめだめ。お前が王なら誰もついてきやしないよ

いえてるねー

うるせーよ。とにかくコールを何とかしねぇとな

本当に国が滅びるぜ

   

カノン

…………

この人たちじゃないな……


 コール王への罵倒を背中で聞きながら、カノンは無感動に思った。
 
 城を滅ぼすのはこの人たちじゃない。

 もっと組織化された集団だ。

 暗殺や壊しのプロ集団。

 歴史的に表舞台に立つことはないが、そういう集団は間違いなく存在している。



 最近、気になることが一つ出来た。


 この城が滅びる未来ははっきりと視えている。

 が、その先の未来が全く視えない。

 こんなことは初めてだ。

 そこで未来が終わっている。

 時間が流れている限り、未来がないなんてことはありえない。


 
 未来が変わる可能性がまだ残っているのか、城が滅びると同時に自分の能力も力を失くすのか、あるいは……

カノン

……

 カノンは目を伏せた。


 背中では、コール王への無責任な罵倒がまだ続いている。


 


 

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