『休憩』が終わり、すっきりした頭で、改めて逢坂さんと向き合う。
心の準備は、よろしいでしょうか
『休憩』が終わり、すっきりした頭で、改めて逢坂さんと向き合う。
横には、固唾をのんで見守る秋帆と弥生さんの姿。
二ノ宮舞花さん、貴女は、僕に様々なものを晒すことになります。プライベートなことまで、遡る記憶に辿り着くまでの貴女の人生、すべてを
……はい、準備は出来ています
それでは、二ノ宮さん、『記憶』を預からせていただきます。僕と目を合わせ、手を握ってください
こう、ですか
はい、始めます……
『記憶』を覗かれている……のだろうか。あまりそういう感覚はしなかった。
でも逢坂さんの覚悟、決意のような心情は、ひしひしと伝わってくる。
逢坂さんと目を合わせ、そらさないように、じっと、ひたすら待つ。
待つ。待ち続ける。
どれくらい時間がかかるのだろうか。
あぁ、なんだか、余計なことを考えられなくなりそうだ……
舞花、大きくなったなぁ
そうかな
あぁ、そうだとも。じいちゃんは、安心したよ。成長した舞花に逢えて、嬉しい
私も、おじいちゃんに逢いたかったよ
舞花がまだ二歳の頃だったなあ、小さい孫を遺してしまうのは、辛かったよ
おじいちゃん……
あ、あぁ、すまんな、暗い話をしてはいけないね、この『時間』は、とても貴重で、短いのだから
……そうなの?
あぁ、そうだよ。覚えておいてほしい、これは舞花の夢ではないよ、現実ではないが、本当に起こった出来事なんだ
……どういうこと?
いずれ、わかる日が来るだろう。その時、きっと隣には誰かが居る。彼に、感謝するんだよ、私がありがとうと言っていた、とも、伝えてほしい
えっ、どういうこと?誰かって?感謝?
その時が来るまでは、知るべきではないことだ。じいちゃんはそろそろいくよ
元気で生きるんだよ、舞花
待って、待っておじいちゃんっ!!
暗くなっていく世界、消えていく影……
私は……
私は、今、何処に…………
二ノ宮さんっ!!
…………っ!!
意識が明瞭になり、視界が開ける。
思い出した……のですか?
……これが、私の知らない、でも、確かにあった、『記憶』なんですか
二ノ宮さんが向き合って、そうだと思うのなら、そうなのでしょう。僕からなにかを伝える必要は……なさそう、ですね
逢坂さん、私、これからどうすればいいんでしょうか
おじい様の言葉から察するに、『その時』というのはきっと、来ればそれだとわかるものなのでしょう。二ノ宮さんが知らないことは、私にはわからないのでなんとも言えないのですが……
なにをすべきか、それは、二ノ宮さんがいちばん、知っていることなのでは?
あっ……
『その時』というのはきっと、もうすぐ来るのだろう。
私がこの記憶を思い出すことが出来たのは、『記憶屋』を訪れたからだろう。引き金になったのだ、きっと。
でもすべての始まりは、あの日、『時間屋』を訪れたこと。
全部が、『時間屋』につながっているような気がする。
私とおじいちゃんが出逢った『記憶』は、時間屋と関係があるのだろうか……?
なにもかもが、『時間屋』と関係している……?
時屋吉野、彼はあの時、どんな思いで、私と……。
また疑問が増えてしまった。けれど、これは答えに近づく大きな一歩だ。
終わった、の……?
逢坂さんから説明される前に思い出すことも、あるんだねぇ……
こんなことは、初めてです。今回は、初めて知ることが多かったです
初体験、ですねぇ
……弥生さん、女子高生ふたりの前でそんなこと言って、セクハラですよ
あははっ、逢坂さんは僕には手厳しいですね
……こんなことばっかり言ってるからおじさん臭いとか言われるのかな、僕
ちょっと、イケメンで優しそうな弥生さんのイメージ壊さないでくれます!?悩みがリアルすぎますよ……
僕優しくないんだけどなぁ
私は優しいと思いますよ、此処まで案内してくださったのは、弥生さんです
弥生さんが居なかったら、私はこの『記憶』と向き合うことすら出来なかったんです……
だから、ありがとうございます
……そんなに感謝されるなんて、思ってなかったな
こちらこそ、ありがとう
お預かりした『記憶』は、僕が大切に、大切に保管します、僕の『記憶』のひとつとして
どんなに時間が掛かっても、いつか、二ノ宮さんがその記憶のほんとうの意味を知り、ほんとうの意味で前に進める日が来ることを願っております
はい、ありがとうございました
問題はまだ、ひとつも解決していない。今日は由宇に任せてしまったけれど、私ももう一度、『時間屋』に行かなければいけない。
おじいちゃんの言葉の意味を、わたしは知らなければいけない。
でも、なにかが変わったことには違いない。
一歩進むために出逢った『記憶』は、懐かしさの中に、やはりすこしの恐怖も含んでいて。
けれどその恐怖と向き合わなければ、答えをみつけることは出来ないだろう。
だから私は、どんなに怖くても、恐ろしくても、なにもなかったことになんかならないように、受け入れ、必ず答えをみつけるのだ。
第十四話へ、続く。