――訓練場五日目、修練所。

ハル

うおっしゃーっす。
今日も30回やるっすよ。

刀の教官

も?

ハル

昨日遅くなったっすけど
30回終わらせたっすよ。
おかげで場長は
見そびれたっすけど。

刀の教官

マジかコイツ。
30って……。

ハル


早速始めるっす。

刀の教官

どうせ適当にやってんだろ。
俺が言うのもなんだがな。

刀の教官

マジかーーーー(汗)!
コイツなんてスピードで
こなしていきやがる!?
三日前と別人じゃねーか!

刀の教官

うおおおおおおおお!
別にやんなくてもいい
特注鉄アレイをあげやがった!?
俺、あれ一度も上げ……
嘘ぉっ!!
速っ!!
キモッ!!!

*ハルが基礎体力コースをこなす音です。

ハル

この調子だと、
夕方前には
終わるっすよ。

刀の教官

やばい。
こえーよ、コイツ。

 ハルの基礎体力訓練を初めて見た刀の教官は,
驚きを通り越して恐れおののいていた。

刀の教官

すげぇ頑張るから
実は感心してたけど、
ちょっと……
いや、かなりひくわ。

 ――夕刻。

ハル

ぷっはー!
終わったっすー。
教~官~、
剣術教えてくれっす。

ハル

おろ?
教官は一体どこっすかね?

 刀の教官の姿は何処にもなかった。
 ハルは仕方なく教官室に足を向けた。

 ――教官室前廊下。

パイセーン、
俺、きちーっすわ。

ハル

!?

 教官室から聞こえてきた声は、刀の教官のものと思えた。

刀の教官

マジで30セットやりやがるんす。
怖えーつーの。

ハル

おっ!
やっぱりそうっす。

刀の教官

もう俺、
あんな暑苦しいガキ嫌っすよ。
うっとおしいし、
めんどくせーんす。

 教官室の扉を開けようとする、ハルの手が止まる。明らかに自分が煙たがられている言葉だ。



 はっきりと目の前で言われる分には抵抗力はある。しかし本人が居ない所での言葉というのは、ずっしりと重みがあり心に纏わりつくものだ。

刀の教官

ダリィーなぁー。

ハル

ううう。

 教官に好かれる為に訓練をしてきたわけではない。しかし、訓練を一生懸命こなしたことで、まさか教官に嫌われてしまうなんて……。

 そう思うとハルの身体に今までに感じた事のない疲労感が圧し掛かってきた。

キャロウェイ

まぁ、そういう奴に限って
すぐにくたばる。
テキトーにやってりゃいいぜ。

刀の教官

ん?
何処行くんすか、パイセン?

キャロウェイ

面会だ。

刀の教官

おっかねぇパイセンにも
会いに来る人なんていたんすね。

キャロウェイ

てめぇと違って
出来た弟子だよ。

刀の教官

じゃあ、できねぇ弟子は
カジノで散財するとしますか!

 教官室の声をそのままに、ハルは扉を開けずに、とぼとぼと宿舎に歩きだした。

 歩調は重く、身体にエネルギーが湧いてこない。明日からどんな顔をして訓練をすればいいのか。そんな事で肩を落としている自分が嫌に思えた。

 宿舎に延びる歩道は、夕日に照らされオレンジ色に染まっている。影は長い。それをただぼんやりと眺めながら歩いていた。



 やがて前方に見えた足元は、メナのものだった。

 慣れぬ訓練を終え、疲れを目元に出していたように見えたが、ハルを認識すると、いつもの笑顔に戻った。

メナ

ハル、お疲れさま。
今日の訓練はどうだった?

 今のハルには眩しすぎる笑顔。それはハルを癒し、話をさせるには十分なものだった。



 真剣にハルの話を聞くメナは、相槌をタイミング良く打つ。ハルの心の中でまとまらぬものも、次々と溢れ出して、傾聴するメナに伝わった。

 ~錬章~     38、たくましくなりましたね

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