――DAY 3――

午後

町中

ショーマ!
探したわ

セミョーン(ショーマ)

ゲッ

ファイーナ(ファーヤ)

最近全然会わないんだもの、どうしてるのかと思ってた。
何も言わずに20日近くどこか行っちゃって、帰ってきてもあたしには挨拶ひとつないのね?

ああ……そうだな……ちょっと仕事が忙しくてな?

結構寂しかったのよ?

セミョーン(ショーマ)

で、今度は何の用だ

ちょっと! あたしだって、用事がなくても会いに来ることはあるのよ




ファイーナは少し頬を膨らませた。





あのね……うちの犬が、死んじゃったの

お前のところの番犬が?

ううん、あの子の子ども。まだ生後そんなに経ってないの。
ついこの間名付けたばかりで、
リーヴィニ(ливень、にわか雨の意)っていうの

それで樹海の近くまで行ったんだけど、父さんがこの天気だから埋葬は後回しだって……

ああ、だいたい分かった。早く埋めてやりたいんだろ?

……うん

セミョーン(ショーマ)

やっぱり用事じゃねーか

ファイーナ(ファーヤ)

これは、ついでに、なの!

はいはい、分かったよ。土が凍っちまってるから、溶かして掘り返すのに時間はかかるからな?
まあ、子どもの大きさならそこまで穴も大きい必要はないし、時間は掛からないだろ

その言い方酷くない?

言ってから、セミョーンは

 何かに気づいたようにはっとした。

……人間なら3日は掛かるよな

なに?

……いや? この吹雪はリーヴィニのために降ってきた『にわか雨』かもしれないと思ってな

セミョーンは表情を戻して応じた。

少しでも長くお前と一緒に居たくて意地悪したのかもな?

……何それ

ファイーナはやや俯いて小声になる。

普段はあたしに全然媚びないのに、時々、分かりにくい言い方だけど優しくなるところ……

……

セミョーン(ショーマ)

お前はちやほやされるのにちょっと飽きてるだけだ

いつもそうやってあしらうんだから!

ファイーナ(ファーヤ)

あ! そうだ、イリヤって可愛い子が来てるの知ってる? あたし、あの子の妹を昨日見たのよ!

セミョーン(ショーマ)

へぇ……その話、ちょっと聞かせてくれるか

「可愛い子」?

う、うん……

といっても、ちらっと見えただけだったから。必死そうな顔してた気はするわ……

格好は?

んー……普通?
たぶん絵で見たのと同じだったと思うけど……

ふーん……髪留めは?
本当の本当に同一人物だったんだろうな?

……

ファイーナ(ファーヤ)

正直そんな細かいところまで見てないわ!

おい

でもね?
はっきり顔が見えたってことは髪留めとかもつけてたんじゃないかしら!

……まあ、いいか
助かったぜ

ショーマも探してるの? 早く見つかるといいわよね、リーリヤちゃん

ちなみに……お前のことだから、あの少年に話したんだよな?

昨日の朝ダッシュで

あー……それもうちょい前に知りたかったな

だから! あたしに素直に会いに来れば良かったのよ

そういう話なのか……?

ストップだ。

よし、それで良い

……はい。

突然どうなさったのですか。時間を止めるなど

どうしたもこうしたもあるか!!

なぜこのオハナシはミステリーなんざ騙ってるんだ?!

この間ノリノリで推理なさっていたのでは?

ふん。
あんなのは「知る者」の遊戯だ

「知る者」?

はっきりと言ってやろう

この話はノックスの十戒を破っている

ヴァン・ダインの二十則を破っている

これは、説明が必要でしょうか

まあ、してやるとするか

あ、この後はクソ長くなるからな。
ミステリの原則とか知らん、ヒントも要らねぇ、必要なら自分でクトゥルフ神話についても調べる……って奴は、帰ってもいいんだぜ?

ノックスの十戒


犯人は物語の当初に登場していなければならない


探偵方法に超自然能力を用いてはならない


犯行現場に秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない


未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を
犯行に用いてはならない


中国人を登場させてはならない


探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない


変装して登場人物を騙す場合を除き
探偵自身が犯人であってはならない


探偵は読者に提示していない手がかりによって
解決してはならない


ワトソン役は自分の判断を全て読者に知らせねばならない

10
双子・一人二役は予め読者に知らされなければならない

訳者によって表現の差はあるだろうが、これがかの有名な十戒だ

5つ目の「中国人」というのは、「万能の怪人」のことを意味しているようですね

改めて確認すれば、違反だらけですね

そもそも
「クトゥルフ神話だから」
というのが大きいな



犯人は物語の当初に登場していなければならない

1.犯人……黒幕となる神話生物が最初から明かされていることはあり得ない

※神話生物を利用しようとする人物を黒幕とみるなら、最初から登場している可能性あり





探偵方法に超自然能力を用いてはならない

2.違反済み




未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない





中国人(万能の怪人)を登場させてはならない





探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない

クトゥルフ神話では未来の技術の登場、通常では気づきようがない出来事を知るのは茶飯事。万能の怪人はともかく神話生物が出現する。
これから先違反する可能性あり

第2項?
クトゥルフ神話に魔術はつきものですから、これから違反するなら分かりますが……
捜査中に魔術を使ったと明記されていた部分はあったでしょうか?

気づいてなかったのか? 露骨に使ってたぞ

「| ||| 樹海と邂逅」

――DAY 3――

樹海

アダムスキー

だが、今回はそうも言って
られねぇようだな

この深さまで歩むには樹海に入ってから

1時間以上歩き続けているはずだが、


まるで炎を纏っているかのようにこの男には

全く息切れも震える様子も見られなかった。

……そういえば、そんなシーンがありましたね

どう考えても肉体保護系の呪文を使ってるな、ありゃ

忘れてるかもしれんが、サスリカはここ数日ずっと豪雪に強い北風が加わった悪天候だ。そこで人間に捜査ができること自体異常なんだよ

まあ、他の項目にも抵触するかもしれないが……とりあえずは、次へ行こうか

こいつはちょっと長いが、目が疲れたって坊やはあとで問題点だけピックアップするからとりあえず読み流しな

ヴァン・ダインの二十則


事件の謎を解く手がかりは
全て明白に記述されていなくてはならない


作中の人物が仕掛けるトリック以外に
作者が読者をペテンにかけるような
記述をしてはいけない


不必要なラブロマンスを付け加えて
知的な物語の展開を混乱させてはいけない


探偵自身、あるいは捜査員の一人が
突然犯人に急変してはいけない


論理的な推理によって犯人を決定
しなければならない
偶然や暗合、動機のない自供によって
事件を解決してはいけない


探偵小説には、必ず探偵役が登場して
その人物の捜査と一貫した推理によって
事件を解決しなければならない


長編小説には死体が絶対に必要である


占いとか心霊術、読心術などで
犯罪の真相を告げてはならない


探偵役は一人が望ましい

10
犯人は物語の中で重要な役を
演ずる人物でなくてはならない


11
端役の使用人等を犯人にするのは
安易な解決策である

12
いくつ殺人事件があっても
真の犯人は一人でなければならない
但し端役の共犯者がいてもよい

13
冒険小説やスパイ小説なら構わないが
探偵小説では秘密結社やマフィアなどの
組織に属する人物を犯人にしてはいけない

14
殺人の方法と、それを探偵する手段は
合理的でしかも科学的であること
空想科学的であってはいけない

15
事件の真相を説く手がかりは
最後の章で探偵が犯人を指摘する前に
作者がスポーツマンシップと誠実さをもって
全て読者に提示しておかなければならない

16
よけいな情景描写や、わき道にそれた
文学的な饒舌は省くべきである

17
プロの犯罪者を犯人にするのは避けること

18
事件の結末を事故死とか自殺で
片付けてはいけない

19
犯罪の動機は個人的なものがよい

20
プライドのある作家なら
次のような手法は避けるべきである
これらは既に使い古された陳腐なものである

犯行現場に残されたタバコの吸殻と
容疑者が吸っているタバコを比べて
犯人を決める方法

インチキな降霊術で犯人を脅して自供させる

指紋の偽造トリック

替え玉によるアリバイ工作

番犬が吠えなかったので犯人はその犬に
馴染みのあるものだったとわかる

双子の替え玉トリック

皮下注射や即死する毒薬の使用

警官が踏み込んだ後での密室殺人

言葉の連想テストで犯人を指摘すること

土壇場で探偵があっさり暗号を解読して
事件の謎を解く方法

(一部文章を省略)

……長い

あたしはヴァン・ダインが好きなのさ

第7則なんて最高じゃないか?

女王様、ここ最近で一番「楽しそうな」顔ですね

感情の分からない機械は黙ってな

さあて。
あたしがまず何を言いたいか分かるよな?
分からない奴はいったんあの色男と声のでかい女の会話を見直してきな?

……

……ああ、そういうことですか


不必要なラブロマンスを付け加えて
知的な物語の展開を混乱させてはいけない

あそこの流れが第3則に違反するのではないかと?

少なくともあたしは見ててイライラしたな

ああ、モテない奴のひがみ発言っぽいとか思った奴ら、後でトラペゾへドロン前集合な?

6.9あたりはかなり微妙ですね


探偵小説には、必ず探偵役が登場して
その人物の捜査と一貫した推理によって
事件を解決しなければならない


探偵役は一人が望ましい

一応アダムスキーが探偵っぽいところがありますけど、まずサスリカで異端扱いですし……セミョーンやイリヤの方が情報量多そうです

クトゥルフって点で言えば、このあたりは完全アウトだよな

13
冒険小説やスパイ小説なら構わないが
探偵小説では秘密結社やマフィアなどの
組織に属する人物を犯人にしてはいけない

14
殺人の方法と、それを探偵する手段は
合理的でしかも科学的であること
空想科学的であってはいけない

クトゥルフ神話の大きな事件にはだいたい教団が絡んでるものさ

ここもクトゥルフではよくあることであり、話の展開次第では違反の恐れあり


探偵自身、あるいは捜査員の一人が
突然犯人に急変してはいけない


占いとか心霊術、読心術などで
犯罪の真相を告げてはならない

17
プロの犯罪者を犯人にするのは避けること

18
事件の結末を事故死とか自殺で
片付けてはいけない

19
犯罪の動機は個人的なものがよい

ああ、4則はよく見るよな!
このオハナシの近い未来でも傑作な奴を見たぜ

……女王様、性格悪いってよく言われませんか?

……さて、かなり違反が多いようですが

だろ?

でも「ミステリー」タグは外さないで良さそうですね

……楽しそうな言い方するじゃないか?

最初に女王様はこの間の愉しい推理ごっこのことをこう仰いました

「知る者」の遊戯だ

僕はこう思考したのです

クトゥルフ神話を、神々を、呪文と禁忌と深淵を知っていれば、それはただの「条件」となる

空想科学的? 幻覚?
違います。現実です

ヴァン・ダインが最も重要視したのは、そんな些末なことよりも、この一則ではないでしょうか?

15
事件の真相を説く手がかりは
最後の章で探偵が犯人を指摘する前に
作者がスポーツマンシップと誠実さをもって
全て読者に提示しておかなければならない

ノックスは、事前に情報が与えられていれば、この一則以外なら許容することもあったのでは?


探偵は読者に提示していない手がかりによって
解決してはならない

要は、「読者が推理しうるかどうか」。
それだけが重要で、それ以外は囚われる必要など感じません

はっ。

言ってくれるじゃあないか

それならしばらく様子見でもしてみるか?
どこまでフェアでいられるか、どこまで推理に不可欠な情報とやらを出せるか、果たして推理できるのか

まだこのオハナシで起き始めた異変の半分も説明できる情報は揃っちゃいないがな……

ああ、そういえば時計。さっさと時間戻せよ?
前回はアクセスエラーになっちまったからな

かしこまりました

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