――DAY 3――



樹海入り口付近

アダムスキー

……嬢ちゃんを、見た?

イリヤ(イーリャ)

はい

僕、早朝から森の入り口にある小屋で張ってたんです。
そしたら、ついさっき、リーリヤが町の方から樹海へ……

どんな様子だったんだ?

ええと……いつもの通りの服装で、焦った顔をしていたような気がします。でも、ちょっとしか見えなくて……

すぐ追いかけたはずなんですけど、小屋を出たときにはもういなかったんです。でも、道を外れてどこかをさまよっているのかもしれないと思って……

アダムスキー

追いかけてきちまったわけか

はい

イリヤの顔にも頭にも、

雪どころか汚れ一つついていない。

しかし、よく樹海を見張ろうと思ったな?

その……

イリヤ(イーリャ)

……あの、アダムスキーさんには言ってなかったんですけど、昨日の朝、リーリヤを見たって人がいたんです。樹海の方へ行ったって

なるほどな。……ちなみに、早朝って言ったが、何時からいたんだ?

朝5時か6時には小屋にいました

アダムスキー


俺が樹海の入り口を通ったとき、人影は見なかった気がするんだがな

あ……それは、たぶん、机に突っ伏して寝てたからです……
僕もアダムスキーさん見てませんし……

早起きのツケか?

はい……
実は、リーリヤを見たのも、目が覚めてすぐ、ぼんやりしてる時で……追いかけるの遅れちゃったんです

……

?!



イリヤは驚いて身を引いた。


おいおい、何もしやしないさ。
ほんの一筋、乱れてた髪を直そうとしただけだ

今動いた拍子に戻ったがな

イリヤ(イーリャ)

あ……ありがとうございます

……なあ

俺に話しちまっていいのか? 大事な情報を

…………ずっと、考えてたんです

……町の人たちにとっては、悪い人かもしれないけど……

僕には、良い人に思えるんです、アダムスキーさんは

そ……そんなこと、滅多に言うもんじゃないぜ

それを言う時だけ、


アダムスキーは顔を逸らした。

アダムスキー

はぁ……潮時だ。
俺はいったん引き上げるが、お前はどうするんだ?

……もう少し、このあたりにいます。倒れる前に戻りますから……

そうか。
なら、森小屋の火は弱くしておいた方が良さそうだな

あ……!

何もしてないだろ?
無人じゃ危険だからな。安心しろ、帰るついでに見てやるよ

すみません

リーリヤ!

リーリヤ!

リーリヤ!

リーリヤ!

その声は、森小屋に着くころには

さすがに吹雪にかき消されて聞こえなくなる。









森小屋の中は、温かいままだったが

火事が起きそうな様子はまだ見られない。


……





アダムスキーは、机の近くに立てかけられた


火掻き棒を手に取る。

ん……




机の上には、

二枚の紙と太く柔らかい色鉛筆が置かれていた。



1枚は濡れてぐしゃぐしゃになり

絵が溶けだしてしまった紙。



もう1枚は、リーリヤの顔がいくつか

 線で描かれている最中だった。




事情をイリヤから聞いていないアダムスキーにも

最初持っていたリーリヤの絵が

駄目になってしまったこと、



暇な見張りの内に描き直そうとして

途中で寝入ってしまったのだろう

ということが分かる。

…………上手いな



次に、アダムスキーは

確かめるように窓を見下ろす。



それを確認することが、実は

アダムスキーが森小屋を訪れた一番の目的だった。





少し近づいて見下ろさないと

窓の近くは見えない。



たしかに、机にぴったりと伏せていれば、

下からは死角になりそうだ。



Ж

サスリカのような極寒の地では、

高床式の家が多い。



凍った大地のすぐ上に家を建てると、

暖房の熱で地面が溶け、ぬかるみ状になる。

すると、家が傾いたり沈む恐れがあるのである。



この山小屋は、人間の目線よりも

いくぶん上に窓があることになる。

Ж


今までずっと、軽く覗いただけで安心していたのは間違いだったってわけだ

地味だが、貴重な「情報」だな

pagetop